11. 偶然の食文化 (2001.04.02掲載)
新しいファッションが生まれる時には、失敗ということも重要な要因となる。「寝ぐせ」という失敗を認めてしまったところから「外はねボブ」という髪型が生まれ、「ずり落ちた靴下」は「ルーズソックス」へと展開する。かつてのヒットアニメ「セーラームーン」の主題歌の一節に、「偶然をチャンスに変える生き方が好きよ」というのがあったが、まさにその通り。偶然をファッションに変えてしまう若者カルチャーと、それをあっさりと認める社会の寛容さに日本文化の一端を垣間みた。というのは少し大げさか。いや、そうでもない。 例えば発酵食品。日本の伝統食品の多くが発酵食品であるが、これだって腐ってたものを、「結構いけるじゃん」と言いながら初めて食べた人の勇気が、新しい食文化を生んだということになる。 しかし、わらの中で糸を引く煮豆を最初に食べた人は本当に凄い。生半可な好奇心ではそんなチャレンジはできない。恐らくは、飢えを凌ぐためにやむなく口にしたというのが本当のところだと思うのだが、いずれにせよ、腐るという失敗なくして発酵食品の誕生はなかったといえる。 かつお節だってそうだ。かつお節もかびを使うれっきとした発酵食品であるが、あまり知られていないためにクイズ番組の問題にされたこともある。ジャイアンツ狂のアナが、シュプレヒコールで参加者を異国の地にあおるという例の集団クイズ番組で、「かつお節はカツオにかびが生えたものである。○か×か」とやっていた。この番組の中では○だったが、厳密に言えば、「煙でいぶしただけのかつお節にかびを生やしたものがかつお節」となるわけで、少々複雑。 煙でいぶしただけのものを荒節と呼び、それをかびを使って発酵させたものが枯節。現在はどちらのかつお節も商品として流通しているが、かつお節が世に登場した江戸時代初期、冷蔵庫がなかった当時は荒節では日持ちせず、たまたま優秀なかびにやられてしまった運のいいかつお節がいつまで経っても腐敗せず、味や香りも上々ということで、かつお節の発酵法が確立したわけだ。かびを繁殖させた方が保存性が向上するという逆転の発想。日本人は、この三百年前に起こった偶然をチャンスに変え、食文化へと発展させていったわけである。 アニメとはいえ、セーラームーンはなかなか奥が深い。
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