13. 子供電話相談室 (2001.04.16掲載)
「放射能はどうしてからだに悪いのですか」 「放射能はね、君のからだの中にある君のからだを作るための設計図に落書きをしちゃうんだな。プラモデルも設計図がないとうまく作れないだろ、それとおんなじで、からだの設計図がよごされちゃうと、君のからだもこれから大きくならなくなるかもしれないんだ。こわいだろ」 NHKのラジオ第一で放送される子供電話相談室でのひとコマ。小学校二年生の質問に、この先生は実に見事に小学生のことばで答えている。 仕事が専門化すればするほど、その内容を人に伝えることが難しくなり、また、伝えようとするとどうしても専門用語を多発する羽目になってしまう。私は、食品化学の研究者であるが、研究という分野になるとその傾向はより顕著になる。いくらすばらしい仕事をしても、その内容が専門外の人からも理解されなければ、社会的な価値はないと思う。 失礼な言い方かもしれないが、レベルの低い研究者ほど、いやみな専門用語の連発で一般人を煙に巻く。そういう意味で、私はいつも自問自答している。「誰にでもわかる言葉、小学生にでもわかる話し方で自分の仕事を語ることができるか」と。 先日、職場にある女の子から一本の電話。後輩が取り、「土居さん、小学生の女の子から、冬休みの宿題で提出するんで、かつお節の作り方を教えて欲しいって電話が入ってますけど」 私は、これだ、といわんばかりに目を輝かせながら受話器を取り、子供電話相談室で学んだ成果を生かすべく、その番組の先生よろしく、「おじょうちゃんは、小学校何年生ですかー」職場で子供の真似をした話し方をするのはいささか勇気がいったが、自分でも舞い上がっているのがわかった。しかし、わくわくしながら彼女の返事を待つ私にとって、帰ってきた言葉は少々きついものであった。 「あのー、私、高校生なんですけど」 「えっ・・・」 動揺した私は、そのあと何を話したのか殆ど覚えていない。と書けば話におちはつくが、私も研究者の端くれ、そこは平静を装い、大人の言葉で淡々と説明した。しかし、受話器を置いた後のばつの悪さは、留守番電話に話しかけてしまった時のようで何とも間抜け。 後輩くん、声で年齢を決めつけるのは考えものですよ。
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