16. シンプルな味 (2001.05.07掲載)
最近の日本のポップスの歌詞は、ふつうのことばを並べただけのシンプルなものが多いように感じる。例えばドリカム。普段着のことばで恋愛を語るユーミンを目標としてきたドリカムであるが、もはやこの分野ではその目標を超えてしまった感がある。そしてスピッツ。日常の単語の組み合わせでありながらも、作品全体からは非日常のイメージが広がるスピッツの歌詞もまたシンプル。 先日、この話を高校時代の恩師である国語の倉本先生にすると、「そういう場合、その曲のメロディーに乗せて歌詞を見るからどうしてもイメージが良くなり、本当の歌詞の評価をしていない」ということを言われた。確かに、メロディーがあればこそのシンプルな歌詞であり、歌詞だけで感動を与えられるかどうかは疑問である。倉本先生によると、「好みもあるが、歌詞だけでも十分通用するのが中島みゆき」だとか。授業の教材として使ったこともあるらしい。 ところで、ポップスに限らず加工食品の味も年々シンプルで薄味になってきている。この場合、食品の世界では、だしが効いていればこそのシンプルな味付けという不文律が存在する。だしが濃いと、その後の味付けが薄くても味がぼけず、素材の良さが生かせるのだ。これはそのまま、今はやりの減塩食につながるものでもある。 ちなみに長寿日本一の沖縄県は、かつお節と昆布というだしの二大素材の消費量も日本一であり、逆に、食塩の摂取量は国内最低。まさにだしの効いている減塩県なのである。 濃いだしで素材が生き、薄い味付けで塩分を減らせる。これを、優れたメロディーで歌詞が生き、シンプルなことばで辞書を引く回数を減らせる。とするのは少々強引か。 もっと強引な話をさせてもらうと、かつお節などに代表される伝統食品は、よく演歌にたとえられる。日本人の心のふるさととか、魂のうたなどという定番コピーを持ちながら、売れるまでにかなりの時間を要し、それだけにひとたび人気が出るとしばらくは安定した売り上げを確保できる演歌。確かに伝統食品のようだ。だとすると、スナック菓子や缶入り飲料は、火がつくと爆発的に売れてその後一気に冷めるポップスかも。 研究者としては、しっかりとだしを効かせて塩分を減らし、演歌のように寿命の長い商品をヒットさせたいと願うのです。
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