17. 職業病 (2001.05.14掲載)
裏を見る職業病というのがある。まず、私のような食品の研究者。スーパーで、コンビニで、時には招かれて行った上司の家で裏を見てしまう。裏とは、食品のパッケージの裏側に書かれている一括表示と呼ばれる一覧表のこと。気になって仕方ないのだ。スーパーやコンビニの棚に並ぶ商品の裏を見るという行為ならさほど不自然ではないが、お呼ばれした家の座敷で、コーヒーと一緒に出された個別包装の洋菓子をひっくり返す姿は、他人にはどう映るのだろう。 一括表示からは、実にさまざまな情報を得ることができる。原材料は使用量の多い順に書くから、一番最初に書かれたものが主原料である場合が多い。製造者○○株式会社と書かれていても、その後ろにアルファベットや数字の記号がついていると、その商品は○○株式会社の下請工場や協力工場が製造したことになる。などなど。これらの情報を、お行儀良く正座しながら瞬時に解読する。商品名は忘れても使用原材料は忘れない。まぁ、それを見たからといってどうなるわけでもないが、職業病だから仕方ない。 そしてもうひとつ。果樹園を営む私の知人も、「いやぁ、この季節になるとついつい裏を見ちゃうんですよ」と言っていた。春先になると柑橘類の葉の裏に繁殖するゴミのような小さなミカンハダニをチェックし、農薬散布の時期を計るらしいが、これまたお呼ばれした時なんかには、その家の庭木の葉が気になり、気がつけば柑橘類でも何でもない葉の裏をチェックしてしまうのだそうだ。 こういう無意識のうちにやってしまう行動で、その人の職業がばれるということがたまにあるが、食品の研究者と果樹園の経営者が裏を見るという共通の職業病で結ばれるとは。いやはや意外である。 そうそう、もうひとつ裏を見る職業病を持つ人がいた。主婦だ。主婦はスーパーで必ず商品の裏を見て日付をチェックし、新しいものを買う。製造年月日表示が賞味期限表示に変わってもなんのその。より新しい日付を求めて棚の奥に手を伸ばし、裏を見る。最近のスーパーでは、裏をかいて棚の奥に古い日付のものを置いてたりもするが、裏の裏をかいて、やっぱり奥の方が新しい場合もある。 とすると、裏を見る人の裏をかくという行動も、これまた職業病なのかもしれない。
|
column menu
|