20. 日持向上剤 (2001.06.04掲載)
先日、あるテレビ局から「民謡で黒田節というのがあるが、かつお節という歌はないのか」という電話取材を受けた。バラエティ番組のネタにするとのことであったが、私も「かつお節」という歌は聴いたことがなく、とりあえず「あるのかもしれないけど、わからない」と答えた。「ありそうでないもの」ってな感じのコーナーのネタにでもされるのだろうか(後日演歌でかつお節という歌のあることが発覚)。 確かに、節にはメロディーやリズムを表現する意味もあるが、かつお節の節という字は煙でいぶす(いぶし)という製造工程に由来し、かつ、竹の節のように硬いからといういわれを併せ持つ。とにかく歌とは関係ない。 生の状態だと刺身で食べられる軟らかさのカツオが、湯で煮て、煙でいぶされることによって竹のように硬くなる。この間およそ十日間。ほんものの竹も、刺身で食べられる軟らかいたけのこから硬い竹になるのにほぼ十日。まさにつかの間の旬である。だから、たけのこという字は竹かんむりに旬(筍)となる。 そのたけのこの旬もすっかり終わってしまい、ほったらかしたたけのこは立派な竹やぶへと成長した。竹やぶは、その成長の速さと神秘的な雰囲気ゆえに昔話の舞台になり、時々現金のかくし場所になったりもする。そして今、竹の神秘性を裏付ける使い道として日持向上剤なる用途が出現している。 これは、孟宗竹の抽出物に抗菌活性が認められることに由来する用途であるが、竹の皮に包んだおにぎりが腐りにくいという現象の方がわかりやすいか。「それじゃ保存料とはどこが違うの?」ということになるが、保存料が微生物の増殖を強力に押さえるヘビーな添加物であるのに対し、日持向上剤は、一、二日程度日持ちをよくするだけというマイルドなやつなのである。実に奥ゆかしく、竹というイメージにぴったりの純日本的な効き目である。 日持ち向上剤には他に、茶、タデ、わさび、シソの抽出物などもあるが、竹を含め、これらは全て台所感覚の身近な素材ばかり。 つまり日持向上剤は、おばあちゃんの知恵を生かし、ちょっとだけ日持ちをよくする控えめな添加物なのである。
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