21. いろいろなドラマ (2001.06.11掲載)
食品を着色するための色素は数多く存在し、種々の食品に対して有効に利用されている。これらの色素は天然、合成の如何に関わらず、その安全性が証明されたものばかりであり衛生上は何の問題もない。ただ、やっぱり味気ない。鮮やかさ、強烈さでは色素に軍配が上がるが、その奥ゆかしさ、上品さとなると、食品そのものが持つ色には勝てっこない。色素を使用しない食品の色は、おだやかに、かつ美しく食卓に溶け込むのだ。 ところで食品そのものが持つ色の成り立ちはさまざまであるが、二つの物質がひっついたり離れたりすることによって色を形成する場合もある。 前者の例がかつお節。かつお節は生のカツオを湯で煮た後、煙でいぶすことによって作られるが、煮た直後のカツオはいわゆる煮魚の状態であり、その色は灰色というか肌色というか、そういうくすんだ色。この色が、煙でいぶされることによって鮮やかなピンク色になる。カツオの血液中のミオグロビンという物質が、煙の中の一酸化炭素とひっつくことによって発色するのである。このミオグロビン、普段はせっせと酸素を運んでいるのだが、ひとたび一酸化炭素を見つけるとあっさりと乗り換え、バラ色、いやピンク色の人生を選ぶ。生きていれば中毒を起こして危険きわまりない一酸化炭素がそんなに好きなのか。バラ色の人生にはリスクがつきものなのかも知れない。 一方、離れて色が出る例がエビとカニ。ご存じエビやカニの赤は、これらを煮ることによって出てくる。これは、タンパク質とひっついていたために本来の色を出せなかったアスタキサンチンという色素が熱によってタンパク質と離れて赤い色となるわけで、いわば切られて本領発揮。逆境をプラスに変えるタイプである。 かつお節とエビ・カニ。どちらも海の幸といわれる類のものであるが、目的が何であれ赤い色を出すことで人々の食欲をそそり食卓を幸せにするのであれば、ひっついたり離れたりすることの意味は大きい。 連日ワイドショーで放送される浮世の情話を見ながら「ひっつこうが離れようがどうでもいいじゃないか」とテレビに文句を言うのであれば、海の幸の色に秘められたロマンを想像することの方がよっぽどいい。 色にもいろいろなドラマがあるのだ。
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