23. 化学調味料 (2001.06.27掲載)
身内の話で恐縮だが、私の弟は異常なまでに昆布茶が好きだ。舌の奥の方に絡む、あのまったりとした味がたまらないと言い、時には梅干しなんかをトッピング(といっても沈むが)してしまう。食べ物のことだからあくまで好みの問題であり、ここでとやかく言うつもりはないが、渋いのか塩からいのか甘いのか旨いのか、ちょっとだけはっきりしてもらいたいのが昆布茶である。 ところで、昆布の主要な旨味成分であるグルタミン酸ナトリウムは緑茶の中にもかなりの高含量で含まれており、昆布を緑茶のようにして使用するのは、あながちズレた発想でもない。また、高級な緑茶ほどグルタミン酸ナトリウムの含量が高いため、いいお茶は昆布のような味がするという図式も成り立つ。ついでに、グッチ裕三氏は昆布茶をだしとして料理に使用している。 昆布だしの効いた湯豆腐をつつきながら緑茶をすする。日本人するには最高にいい情景であるが、もうひとつこの場に加えて欲しいものがある。 それはかつお節。かつお節の旨味成分は、グルタミン酸ナトリウムと少し毛並みの違うイノシン酸という物質であるが、この二つの旨味成分を同時にとると、相乗効果といって、それぞれ単独でとる場合よりもはるかに強い味となる。1+1が2でなく8ぐらいになる感じであり、我々はこれをだし算と呼ぶ。このだし算を応用したのが、昆布とかつお節の合わせだしというわけだが、純粋な旨味成分だけの、いわゆる「化学調味料」というやつも台所には欠かせない。 しかし、この化学調味料、「化学」とつけてしまったばっかりに天然志向の食卓からは敬遠されがちな存在となってしまった。どうやらこの呼称は、NHKの料理番組で「味の素」や「ハイミー」というこれらの商品名を使えなかったために付けられた造語らしい。名付け親は、文化住宅や文化包丁における文化、あるいは、万能なべや万能たわしにおける万能という枕詞的存在を、この化学という言葉に託したのか。 それならついでに、ミキサーを物理調味料、食塩を地学調味料、味噌を生物調味料と呼べばどうなっていたか。けど、あんまり調子に乗ってると、「どうして理科ばっかりなんだ」というとんちんかんなクレームが来そうで、恐い。
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