28. 塩かど (2001.08.03掲載)
クラス会で旧友に会った。みんな、心も体もかどが取れて丸くなっていた。人生経験の蓄積で中身を濃くしてかどを取ったやつもいれば、いろいろなところにぶつかって無理やりかどを削ったやつもいる。比較的多く見受けられる物理的な体重の増加でかどを取ったやつは、視覚に訴えるからわかりやすい。 外見的に体が丸くなっちゃうオヤジ路線は別として、中身を濃くしたり、かどを削り取ったりという精神的に丸くなるパターンというのは、醤油の塩かどが取れる現象によく似ている。 当時、まだかどの取れてなかった仲間と補習をさぼって泳いだキラキラ光る海の塩分は、約3%。その話で盛り上がるクラス会のテーブルには、塩分15%の醤油。 どっちが塩からいかって、そりゃ海水が塩からいに決まってる。じゃ、なぜ塩分が5倍もある醤油が塩からくないのか。それは、醤油には旨味成分が入っているから。海水中にはほとんど存在しないグルタミン酸などの旨味成分には、塩かどを取る働きがあるのだ。つまり、中身(旨味)が濃けりゃ、かども取れるということだ。 それじゃ、かどが削られるというのはどういうことになるのか。 醤油を何ヶ月か寝かせてやると塩かどが取れる。いわゆる熟成だ。これは、寝かせている間に食塩が水分子に取り囲まれて影が薄くなり、口の中でストレートに舌に届かなくなるためである。かどが削られたというより、かどを隠されたと言った方が正しいかもしれない。 何かにぶつけてかどを削り取るような荒療治よりは、時間をかけて、じっくりとかどを隠す醤油の熟成方式の方が無理がない。けど、熟成して丸い人間になったとしても、その時には熟年と呼ばれてしまう年齢になっているのではないか。 まぁ、それならそれでまたクラス会をやり、ゆるくなった涙腺に手をやりながら酒を交わせばいい。 涙の塩かども、きっといい思い出になると思う。
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