34. 開発の鉄人 (2001.09.10掲載)
食品メーカーにおける商品開発は、理系の仕事か文系の仕事か? ときどき質問されるこの問いの答えは、みなさんの想像通り理系と文系の両方である。体を動かしてモノを作る試作段階では、分析値との格闘や科学的な考察が要求され理系の仕事という感じであるが、商品が完成してから市場に出るまでの最終段階は完全に文系の守備範囲である。 商品名を決め、キャッチコピーやセールストークを作る。いわばお化粧をする時間。生かすも殺すもお化粧次第。気をつかう。特にキャッチコピーが難しい。苦労した商品だから、こだわりの素材だから、どうしてもたくさんのことばを詰め込みたくなる。だから、短いコピーほど難しい。 人間だって「あの人の魅力は一言じゃ語れない」とよく言うのだから、魅力のある商品も、その良さを一言なんかじゃ語れない。 外見だけのアイドルなら、「はじける十五歳」てな感じの軽薄なコピーで十分通用するが、しぶ目の性格俳優に一言のキャッチコピーは無理なのだ。でも、それをするのがプロ。 じゃあ、商品開発のプロとは? これまた、ときどき質問される問いの一つである。いろいろな分野でプロとアマチュアの違いが論じられており、「基本に忠実なプレーをするのがプロだ」とか、「作品を見ただけで作者がわかるのがプロだ」などと言われている。が、こと商品開発に関しては明確な答えがある。「売れるモノを作るのがプロ」なのだ。 どんなにおいしいモノを作っても、それが売れなければただの料理である。開発担当者は料理の鉄人になれても開発のプロにはなれない。乱暴な言い方かもしれないが、味が普通でも、その商品が売れさえすれば担当者は開発のプロということになるのだ。 スポーツ選手だって、その選手目当てでチケットが売れるようになればプロと呼ぶにふさわしいわけだし、芸術作品が売れればその作り手もまたプロということになる。 ただ、開発のプロに徹し、売れさえすればそれでいいという考えでいると、心のこもった商品づくりから離れたところに立ってしまう恐れがある。だから、ひたすら旨いものを作るという料理人のスピリッツも忘れずに持ち続け、開発の鉄人となるべく精進しなければならないのである。
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