41. 牛だらけ(2001.10.29掲載)
狂牛病騒動のただ中にいる。 FAXから吐き出される白い悪魔は安全性の保証を執拗に迫り、機械的書類作成業務は深夜のコンビニへと我が身をいざなう。水産系食品を扱う私でさえこれなのだから畜肉系はもう大変。某畜肉エキスメーカーの知人がヘロヘロの声でグチってた。「とりあえず寝袋もってんだよね…」。 狂牛病=Mud Cow Disease(MCD)。 ん?ひと頃問題になったMCP、DCPに似ている。MCP=モノクロロプロパン、DCP=ジクロロプロパンで、共に悪者にされた発がん性物質。タンパク質を塩酸で加水分解した時に発生する曲者だ。そこで塩酸をやめ、酵素で分解することにした。塩酸をハサミだとすると酵素は指。マイルドに分解するので発がん性物質は発生しない、と安心していた矢先のMCD騒動なのである。 このほか、遺伝子組み替え作物、アレルギー物質、環境ホルモン、農薬、抗生物質など、食品メーカー泣かせのネタは枚挙にいとまがない。もしかすると、全ての条件をクリアする食品など何もないのかもしれない。けど、「いやなら買わなくたっていい」と卓袱台をひっくり返し、男一徹になれないところが資本主義社会のつらいところ。 食糧問題を解決し、食生活を豊にするために開発された文明の粋が逆に足かせとなる。いままでさんざん恩恵に授かってきたじゃないか。グルソーはいやだと言ってタンパク加水分解物を推薦してたじゃないか。しかし、手のひらを返したユーザーに逆らう術もなく、これらのリスクの間を縫うようにしてエセ天然志向にたどり着く。運動会も終わったというのに時ならぬ障害物走だ。 ならば問いたい、食糧自給率が40%を割った今、明日突然戦火に覆われ補給路を断たれても千葉県産の牛肉は食べないというのか。援助物資の裏面表示にさえ調味料(アミノ酸等)の文字を探すのか。つまりは、あの大戦下の飢えにふたたび立ち向かえるのかということである。 私は、発がん性物質や狂牛病を肯定しているのではない。排ガスや石油問題を抱えながらもクルマ無しでは生きていけないように、何のリスクもなく世界人口62億を支える食糧はまかなえないという現実を理解していただきたいだけなのである。 輸入してまで食べ残す飽食の国を憂いながら。
|
column menu
|