43. 感激の味(2001.11.12掲載)
狂牛病騒動も加工食品の分野では収まりつつあるが、カレールウのメーカーに勤務する知人に近況を聞くと、「まだダメ、売上は30%減。家でカレーを作る回数が増えた」のだと。少しでも社販でカバーしようという竹やり戦法のただ中にいるらしい。 確かにカレールウの裏面表示を見ると、原材料の欄にいきなり「牛脂」があり、途中で「肉エキス」も出てくる。もちろんどちらもシロだが、消費者心理的にはマイナス要因に違いない。しかし、カレーは1ヶ月平均4皿の国民食。さてさていつまで我慢できるかな。 日本で初めてカレールウを発売したのは東京神田の「一貫堂」。1906年のことらしい。一気にブレイクしたのは1963年発売のハウスバーモントカレーだよぉ〜。それまでのカレーの固定観念を破る甘口タイプの子供向け。リンゴとハチミツとろ〜りとけてるCMの映像は、心に深く染みついて離れない。 いとしこいしの「がっちり買いましょう」で、値段調整の材料にされていたグリコワンタッチカレー(1960年発売)に心奪われた時期もあったが、やはりそこはヒデキ感激の味、バーモントカレー。現在も甘口、中辛あわせてシェア20%(各々1、2位)のお化け商品だけに、カレーを世界に広めた東インド会社もびっくりの定番アイテムなのだ。 そして、たまに専門店の本格カレーが食べたくなるが、そんな時は世田谷区池尻の壺焼印度カレー「ビストロ喜楽亭」。10時間煮込まれたルウが壷の中でふつふつ沸きながら運ばれてくる。熱いので注意。やけどしないように壷から取り出した瞬間のインディな香り、辛いけど辛くない不思議なコク、秘伝のスパイスに潜むあやしい習慣性。これまた感激の味である。 しかし、いくら専門店のカレーがおいしくても、バーモントカレーが食卓から消えることはない。行列のできるラーメン店がカップヌードルに勝てないように、高度成長期にヒデキに押しつけられた感激の味は、味覚のポジティブトラウマとして生涯離れられないものになっているのだ。 よし、次世代に押しつける感激の味を創ろう。
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