46.順番(2001.12.03掲載)
牛肉断ち禁断症状が出はじめたので、すき焼きを爆食することにした。めざすは東京都中央区新川にある「牛幸(うしこう)」。永代通りの裏筋にひっそりとたたずむ牛幸は、文明開化時、牛肉に歓喜した明治人の息吹が染みついたような趣で、すごくシブイ。池波正太郎先生の著書「むかしの味」に登場しそうな感じである。 肉は霜降り米沢牛。仲居さんが手際よく鉄鍋に脂をしき、まずはネギ。そして野菜。その上に肉、わりした、だし汁。ご存じ関東スタイルの順番である。 関西は最初に肉を焼く。それに、わりしたを使用せず、だし汁、砂糖、みりん、醤油、酒など、わりしたの原料となるものを「さしすせそ」の順番に入れる。 さしすせその順番(砂糖、塩、酢、醤油、味噌)には、しみ込にくい材料を先に入れ、香りの飛びやすい材料を後から入れるという根拠があるが、すき焼き肉の順番にはどんな意味があるのだろう。すき焼きという名前から考えると最初に焼く関西風が本筋か。語源も、鍬の上で肉を焼いたことに由来するらしいし。関東風は牛鍋だな。 食品ネタで「順番」とくれば、連想するのは給食の「三角食べ」。ごはん(パン)→おかず→牛乳という順番の食べ方に根拠はあったのか。先生がしつこく連呼していたのを思い出す。じゃ、フランス料理のコースはどうなるんだ。一方通行じゃねえか。ま、結局胃の中に入ってしまえば同じなんだけどね。 ところで、すき焼きのおいしさは具材を投入する順番ではなく、取り出す順番にあるように思う。専門店だと絶妙のタイミングで仲居さんが肉を取り出し、卵の入った小鉢に落としてくれる。そして、野菜、豆腐ときて寂しくなった頃にまた肉。すき焼きが煮込みにならないように、味のしみこみ加減に気を配りながら仲居さんが取り分けてくれる。団らんの鍋奉行にはできない技である。 けど、これって三角食べじゃないか。うーん、給食の三角食べは日本の食文化に根付いた行為だったのか。 またしても給食のトラウマが影を落とした昼下がりであった。
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