52.ガイドブック(2002.01.23掲載)
ガイドブック 高校1年の冬休み明け、選択科目で美術を履修していた私は宿題の油絵を抱え、美術室に入った。その日の授業は「宿題批評会」。全員が順番に描いてきた絵のコンセプトとこだわりを発表し、先生の講評を受けるというものである。 自称「資産家の御曹司」M君の順番が来た。 「えー、我が家のお正月は毎年ハワイと決まっておりまして、これはワイキキビーチの喧噪をホテルのベランダから写生したものです。もちろん部屋はロイヤルスイートですけど」 「ふーん、そうか。なかなかよく描けているじゃないか。ところでひとつ聞くけど、君が写したガイドブックの写真には、もっと泳いでいる人いたんじゃないかな?」 「えっ?ガ、ガイドブック…?」 「実際のスケッチか写真を写したものかぐらい見分けられなくて、美術教師やってられるかっ」 「し、失礼しました〜」 けがれを知らない1年坊主は美術教師の眼力に感服しつつも、「ハワイに行ったことにするM君もちょっとすごいな」と感心し、その後の世渡りの参考にしたものである。 ガイドブックを信用するとえらい目に遭うのは、食べ物やさんガイドも同じ。広告出稿と引き替えのデリシャストークは市場原理の具現化に過ぎず、当然ながら味の保証などどこにもない。しかし、これでも食品業界の末席を汚す我が身。美術教師並みの眼力で、優良店を見分けるコツはないものかと新規開拓に精を出す日々である。 これまでの成果… 焼き肉は、たれがシンプルな店ほどうまい。 にぎりは、板前さんの気合いが入っている店ほどうまい。 お好み焼きは、鉄板が大きい店ほどうまい。 そばは、お酒を飲んでいる紳士が多い店ほどうまい。 うどんは、削りぶしのダンボールが座敷に溢れている店ほどうまい。 うまいもの情報は、和食系メーカー発信が最も信用できる?
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