53.対決(2002.01.28掲載)
対決 先日、あるバラエティ番組で「嫁と姑が買ってきたネクタイ、はたして夫はどちらを選ぶのか」という企画をやっていた。嫁と姑がそろってデパートに行き、渾身のセンスでネクタイを選ぶ。 「秀夫ちゃんはこーゆー色が好きなのよぉ」 「あぁらお母さま、あの人はそんな風呂敷みたいなのしませんよ」 翌朝、「バーゲンしてたからネクタイ2本買ってきた。今日どちらかして」となにげにテーブルの上にネクタイを2本並べ、嫁は別室で姑と待機。もちろん夫は2本とも嫁が買ってきたものと思っている。 その後、夫がどちらのネクタイをしようかと迷う姿が隠しカメラでオンエアされるのだが、これがどうもウソ臭い。鏡を見ながらしめたりはずしたり。とっかえひっかえどちらにしようかと悩んでいる。やらせだとは言わないが、自分がその状況に置かれたら、絶対に迷わず即決する。なぜなら、もう1本のネクタイも明日の朝には使えるからだ。 デパートで1本買うとなるとそりゃ迷う。しかし、今日するか明日するかの違いにそこまで考えるか。「フェラーリとポルシェ2台買ったんだけど、今日はどっちに乗る?」と聞かれたって即決できる。今日フェラーリに乗って明日ポルシェに乗ればいいのだ。 そんな企画のオチは、20勝4敗で姑の圧勝というなんとなく偽善的アットホーム感漂う結末だった。いくら生まれた時から自分の趣味を押しつけてきたとはいえ、姑のセンスが息子のネクタイ選びに継承されているとは思えないが。 しかし、もし料理対決をしたならガチンコで姑の圧勝だろう。嫁が気張った「オマール海老の香味焼きバルサミコソース仕立て」も「だし煮干しをそのまま残したガジガジかぼちゃ煮」には勝てっこないのだ。だしが出てしまった後の煮干しは骨っぽく、ガジガジするだけでちっともおいしくない。ほんとにいやだった。しかし、「骨になるからガマンして食べなさい」というおふくろの声はミネラルの欲求として遺伝子に転写され、ガジガジ咀嚼はストレートに脳を刺激したのだった。 口当たりのいいおしゃれなメニューとダサイ田舎料理。今日か明日かの選択にもきっちりと答えを出す、そんなカラダに育ったことを素直に感謝したいと思った。
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