60.ウナギ目アナゴ科 (2002.03.18掲載)
以前このコラムで、うなぎの幼魚がレプトケファルスと呼ばれていることを紹介したが、読者の方より「のれそれと呼ばれるあなごの幼魚も取り上げてほしい」とのメールをいただいた。高知県の郷土料理として有名なのれそれであるが、私自身よく知らないので、ここはあなごの話で勘弁してもらう。 わが実家では、うなぎ嫌いの祖母の影響でうな丼の類が食卓に上ることはなく、定番があなご丼だった。素焼きのあなごを約1?間隔で切り、醤油100、砂糖24、酒2、化学調味料1、白ごま少々をブレンドした秘伝のタレに漬け込む(数字は推定配合)。これが大どんぶりに入れられて食卓の中央に置かれ、各人がタレごとすくってしろめしの上にぶっかける。タレに粘度がないからすぐに「つゆだく」になってしまうが、「おばあちゃんのぽたぽた汁」って感じでけっこうおいしかった。世間の定番がうな丼であることを知るのはこの十数年後のことである。 だからやっぱりあなごがいい。うなぎイヌよりあなごさん。下あごが長いうなぎより、上あごが長いあなごの方がかわいいし、農林中央金庫がOL400人に聞いた「最も好きな寿司ネタアンケート」でもうなぎは圏外だがあなごは7位にランクされている(ベスト3はとろ、うに、まぐろ)。 そして私は、お寿司屋さんの善し悪しをあなごの味で決める。現在のおすすめは、鹿児島市の繁華街、天文館にある「蘭」。気合いの入った若い板長さんが、さわやかにこだわりを披露してくれる。 「太いあなごは下半身がうまくて、細いあなごは上半身がうまいっす」 なるほど。じゃ、いま握ったのはどっちなの? 「太いあなごの下半身っす。下半身いいっすよね」 そうね。いいよね。…ん? 「あなごは何でも食べる悪食家だからうまいんすよ」 それで? 「何でも食べる太いあなごの下半身っす」 そして店を出る時、板長が呟く。 「あなごの寿司ことばって『知性』っすよ」 南国の夜は長い。
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