62.宇宙からのねばねば(2002.04.08掲載)
最近ちょっとだけ納豆が食べられるようになった。ただし、納豆臭の少ないやつを。いかそうめんと混ぜ、辛子と醤油でごまかして。しかも数粒。 しろめしと一緒に朝納豆をかき込みたい願望はすごく強い。毛嫌いしているわけじゃなく好きになりたいのに、なぜか近づけない。 納豆臭の抵抗か、ねばねばのバリアか。 やはりねばねばのバリアだろう。納豆のねばねば成分は、グルタミン酸が約5万個つながったポリグルタミン酸と呼ばれるもの。納豆菌たちは、実際にこのポリグルタミン酸を楯にしてアメーバや原生動物などの捕食者、バクテリオファージなどから身を守る。おまけに納豆菌はポリグルタミン酸を栄養源にすることだってできる。1つずつグルタミン酸をはずしてエサにするのだ。すごいぜ納豆菌。 こんな強固なバリアを破って食べるから、納豆好きは粘り強い人間になれるのかな。オクラ、山芋など、ねばねば系がほとんどダメな私は、やはりあきらめの早い粘り無き人…。 納豆のポリグルタミン酸にはもうひとつの不思議がある。それは、D型のグルタミン酸がほぼ半分を占めているということ。ふつう、自然界に存在するグルタミン酸はL型である。「味の素」の主成分であるグルタミン酸ナトリウムもL型。D型に旨味はない。 D型とL型の違いは、単に構造が左右対称というだけ。つまり、右手と左手のような関係。同じだけど重ならない不思議なペア。D型を鏡に映した姿がL型だから、鏡像体という呼び方もある。自然界に存在しないD型グルタミン酸。納豆のねばねばは鏡の向こうからやってきたのか。いや、D型アミノ酸は隕石の中にもあるから宇宙からやってきたのかもしれない。ならば納豆を宇宙に持っていき、スペースシャトルの中で糸を引くかどうか食べてみるってのはどうか。 そのためには日々納豆を食べ、こつこつねばねば宇宙飛行士になる勉強をしなければならないのである。
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