72.短命線(2002.06.10掲載)
夏の到来を感じさせる蒸し暑き夕刻、京浜東北線で「弁当を食べる男」を目撃した。「耳の上に赤えんぴつ」系のその男性はシートに座り、赤羽あたりで自作と思しき弁当を広げて食べ始めた。例によって少々のことでは驚かない東京人。車両内の空気は動かず、弁当男も表情を変えず。その後、上野を過ぎたあたりで男は静かにフタを閉じた。 思えば15年前、上京したてのカントリーボーイにとって京浜東北線は驚きの連続だった。「蕨−御徒町(わらび−おかちまち)」という「いちご−ごとちょう」と読んでしまいそうな定期を握りしめ、ローカルでは考えられない人ごみに向かった。 満員の車両にちびり次の電車を待つことの無意味さに青ざめ、ホームの端から端まで歩く間に次の電車が来る過密ダイヤにおののき、改札のあんちゃんが操る入札の16ビート鋏に驚嘆した。 しばらくするとマナーも身に付いた。車両の扉付近に立った時は降りる人のために一度ホームに出ること。ホームで電車を待つ時は扉の両サイドに立つこと。エスカレーターでは左側に立ち、右側を追い越し用に空けること(大阪は反対らしいです)。 そして、東京を去る頃にはいろいろなテクニックを習得していた。座っている人の中から降りそうな人の顔を見分け、その前に立って座席を確保。どの車両にいれば乗り換えが楽かを考え、下手すると1駅分歩かされるネットワークのロスタイムを削減。 で、結局いまだにできないことが1つ。パタパタと新聞を折りたたみながら常に1/4サイズで全ての紙面を読み尽くす技。これは難しい。すぐに紙がごわごわになり、5/4くらいに膨張してしまう。満員電車でコンパクトに新聞を読める人が羨ましい。 こんなふうにプチ社会勉強をさせてもらった京浜東北線であるが、実は不名誉なデータがある。東京の沿線別平均寿命調査で、京浜東北線沿線は最も短命との烙印を押されてしまったのだ。ちなみに長寿は東横線沿線。つまりは眩しき高級住宅街。 JR東日本殿、住まいも職場も京浜東北線沿線でしたが、元気で頑張っていますよ。
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