76.織田信長とコストダウン(2002.07.08掲載)
信長が本能寺に散った夜、夢まぼろしで千利休を飲んだ。信長が好きだったというアワビの煮物を食べながら。 「夢まぼろし」は松山市二番町にあるかなりゴージャスなバー。信長ファンというオーナーの趣向で、鎧甲、風神雷神図、そして敦盛が出迎えてくれる。その演出には隙がなく、ためらうことなく非日常にうつつをぬかすことができる。 「千利休」はこの店の人気カクテル。抹茶と日本酒ベースで茶器に入って出される。あまたのカクテルコンテストで名を馳せたオーナーの作品だけにそつがなく、それでいてくつろげる味。そして、秀吉時代の利休の光と影を感じさせる不思議もある。 「アワビ」は年々高騰を続ける海珍。オーストラリア産もサメをかわしながらの漁ゆえ1キロ1万円。代替品として輸入されているチリ産ロコ貝だと1キロ千円くらい。 もちろんここはホンモノ。 信長にはこんなゴージャスナイトが似合いそうだが、その実、合理的な改革人という一面も持っている。鳴かないホトトギスを殺してしまう凶暴なイメージ、そろそろ終わりにしてはどうか コストダウンに関するこんなエピソードがある。 ある年、城下で大相撲興業を実施した時のこと。結びの一番が終わると同時に家路を急いだ見物人が将棋倒しになり、けが人が多数発生した。そこで翌年、大相撲興業を前にした幹部会の席上、信長は「けが人が出ないような対策を打て」と命じた。しかし幹部たちの出す案は、道を広げてほしいとか警備員を増やしてほしいなどとコストのかかることばかり。とうとう信長は怒ってしまい「金のかかることばかり言うな」と一喝。結局、信長のアイディアで、結びの一番の後にもう一つ別の興業を設けて帰る人の分散化を図り、コストをかけないで安全運行に成功したとのこと。まさに、このアイディアこの発想、現代でも十分通用する機転である。親方さまを見習わねば。 信長が考えたという結びの一番の後の興業。これは、弓取り式として現代に継承されているのである。 人間五十年、この相撲一番にて千秋楽にござりまする。
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