85.ダンダンディダン シュビダディン(2002.09.16掲載)
今から二十数年前、大作曲家小林亜星先生が私の進路を決めた。 それは、高校受験を控えた悩める中3の秋。結果的に進学することになるS高校の前を偶然通りかかった時のこと。ちょうど運動会の打ち上げ中で、校庭ではアーチを燃やしながらのフォークダンスが盛り上がっていた。男女が手をつないで「オクラホマミキサー」を踊るパラダイスぶりに、くぎ付けになった。 そして次の曲、「ワシントン広場の夜は更けて」が流れた瞬間、私の体は無意識にこの曲に吸い寄せられ、迷いは消え、進路は確定した。 この、どこかもの悲しいマイナーコード(Em)に体が反応し、原点回帰の感動に包まれた理由。それは、この曲をモデルにして作られたCMソングを幼時にしこたま刷り込まれていたからではないかと思う。茶の間のテレビで、父の口笛で、祖父の鼻歌で。 「ダンダンディダン シュビダディン オデーエーオエーオー」 そう、ご存知サントリーオールドのCMソング「夜がくる」。そして、この曲を作曲したのが小林亜星御大なのである。明治製菓の「チェルシー」、日立の「この木なんの木」などを手がけたCMソングの帝王は、「ワシントン広場の夜は更けて」をモチーフにCmでこの曲を書いた。 つまりS高進学は、魂に染みついたマイナーコードに導かれた結果なのである (フォークダンスに導かれた可能性も捨てきれないが)。 そういえば、最近マイナーコードのCMソングを聴かない。宗教学者の山折哲夫先生も、「茶の間からマイナーコードが消えて、いじめが増加した」とおっしゃっていた。マイナーコードの暗い曲を聴くことで弱者の気持ちがわかり、助け合う心が生まれるというのだ。確かに、経済発展とともに童謡もCMもみんなメジャーコードの明るい曲になった。明るい曲は強者の曲。弱いものを思いやる気持ちは生まれない。 とすると、食生活でも同様のことがいえるのか。「貧しい食事に耐えることで弱者を思いやる心が生まれ、いじめは起こらない」と。 うーん、明るく豊かになりすぎたか、曲も食も。 「ダンダンディダン シュビダディン オデーエーオエーオー」 今宵はいりこをつまんでオールドでも、いかが。
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