86.路地裏探検行(2002.09.23掲載)
私には、見知らぬ街の路地裏を探検するという秘かな趣味がある。あらかじめ目星をつけた気になるポイントに自転車で出かけて行き、ひねもす探検の小旅行。そして、クルマが通れないくねくね小径をふらふらして方向感覚を失いそうになった時、一瞬、昔日の路地裏にタイムスリップしたような感覚を味わうことができる。この迷子感覚。 昭和40年代。秋の夕暮れは今よりも速く、暗闇はどこまでも怖かった。少年は野球帽を握りしめ、家路を駆けた。 こんな遠い日に回帰できるスポットは、もちろんどこにでもあるというわけではない。市街地でありながら戦禍をまぬがれ、地上げをかわし、100円パーキングの波からも逃げ切った、ある意味地味で不便なコミュニティー。そんな秘境をどうやって見つけるのか…。やはりランドマークのない目標にたどり着くには、においに頼るしかない。 先日も、そのにおいに引きつけられ、いい路地裏を探検することができた。 まず、どぶ川のにおい。路地裏にはふたをしないむき出しのどぶ川が欠かせない。 そして、どぶ川に沿って道がくねっているため方向感覚が失われやすく、時間的空間的迷子感を体感できる。 あと、ニスのにおい。こげ茶に塗られた板塀は路地裏の必須アイテム。黒光りの板塀は独特のにおいを放ち、足下にはコオロギの声。 そして、極めつけのあのにおいにも出会うことができた。ソースと天かすが鉄板の上で焦げるにおい。そう、お好み焼き屋のにおいである。 幅1メートルほどの小径に面した民家風のお好み焼き屋は入り口を開放していて、土間に座る大きな鉄板を覗くことができた。常連客らしきおっさんが1人、お好み焼きをつついていた。よそ者を寄せ付けない独特の小汚さを放ちつつ、おいしいお好み焼き屋の要素を全て備えた路地裏の繁盛店。うまいんだろうなー、きっと。しかし、飛び込むには準備不足でチャレンジは次回。今日はにおいだけごちそうさま。 いつも胸一杯になる路地裏探検がやめられないのである。
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