91.事前の説明が欠かせない食の話(2002.10.28掲載)
毎年この時期、職場で国際協力事業団(JICA)の外国人研修生を受け入れている。東南アジアを中心とした開発途上国10カ国の技術者たちが3ヶ月間日本に滞在し、最新の水産加工技術を学ぶのだが、その内の2日間が私の担当となっているのだ。ODAの一環である。 今年で4年目。2日間の英語講義は相変わらずキツイが、タダで駅前留学と考えれば苦にはならず、国々のなまりを聞きながら最強のアジア英語をマスターできる貴重な生教材となる。 しかし、試食の時は気を遣う。宗教上豚を食べられない人、牛を食べられない人、アルコールがだめな人がいるわけで、うかつに勧めると、かつてインドネシアで発生した「味の素事件」の二の舞になってしまう。製造工程中で豚から抽出した酵素を使用していた「加工助剤」レベルの話が食品業界を震撼させたわけだから、よーく配合を吟味しなければならない。 例えば、そばつゆを試食してだしの重要性を認識してもらうというアトラクションでは、みりんのアルコール分が問題になり、水産原料でソーセージを作るという実習では、ケーシング(ソーセージの皮)が牛ゼラチン由来だということが問題になる。黙っていれば気づかず食べてしまうレベルの話だが、後で国際問題に発展すると大変なので、ちゃんと説明する。 こういった禁則は、聖書ができた当時の食糧難時代にはそれなりの根拠があったものに違いなく、それをかたくなに引き継ぐ純なこだわりが信心につながるのである。 つまり食はきわめて保守的である。奇をてらった商品はヒットしない。 ところで先日、サクマ製菓より「懐かしい給食の味 大学いも、あげパン、フルーツのヨーグルトあえ」という保守的なのか奇をてらったのかわからないキャンデーが発売された。給食の味に関する思いは人それぞれであり、最大公約数としてこの3つの風味をアソートしたと思うのだが、反面、給食という単語に拒否反応を示す人もたくさんいるはず。私もその一人。給食のにおいを発する食品は絶対に食べないし、ちゃんと「この商品には給食のにおいが含まれています」と説明してくれなきゃ困る。後で気づけば暴動ものだ。 お残りの教室は暗く、クリームシチューの甘ったるい香りはどこまでも私を孤独にした。給食デビューにつまずいた私は、昼休みの憂鬱を心に刻み続けた。 給食は私にとっての禁則なのである。
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