94.裏面販売(2002.11.18掲載)
「超」整理法で有名な野口悠紀雄氏が「超」文章法の中で、文章は始め方と終わり方が難しく、それは飛行機の離陸と着陸のようなもの。米国同時多発テロでテロリストが旅客機を操縦できたのは、離陸と着陸がなかったからであると述べている。なるほど。 たしかに最初の1行を書き始めるまでは手が震え、最後の1行を書き終えて心がおどる。もちろん着陸の方が難しいし、うまく着陸できた文章はタイトルもすんなり決まる。 これを加工食品の購入から消費までの流れに当てはめてみると、量販店でパッケージを手に取り、外観、賞味期限、添加物などの情報を十分チェックしてかごに入れるまでが離陸ということになる。中身を食べるという行為はテロリストにもできる簡単なフライト。そして、食べた後は容器の種類を確認して分別ゴミへ廃棄。リサイクル可能な容器か、地球に優しい材質か。着陸も難しい。 食品がこんなにややこしくなったのはいつからだろうか。パッケージの裏面を埋める言葉は毎年増殖を続け、内容はより高度化している。「遺伝子組み換え不分別」「原材料の一部に小麦、大豆を含む」「特定保健用食品」「国産」等々。勉強してないと食品が選べない時代が来てしまった。40%そこそこの食糧自給率でそこまでこだわって大丈夫なのか。昔日の八百屋さんが見たらひっくり返るぞ。 そうだ、八百屋さんでひらめいた。JAS法によれば、量り売りは表示義務の対象外となっている。だから、加工食品もあの竿秤で量り売りすればいいのだ。ポッキー5本とか、煮干し20匹とか、味噌100gとか。原材料の来歴は竿秤を持つあんちゃんに聞けばいい。そこに対話が生まれ、食の信頼が回復する…。なんてきれいごとを並べてみたが、対面販売の衰退した今の日本で量り売りなんて絵空事だ。コンビニでは80%の客が無言のままレジを通過するといい、回転寿司利用者の40%が、利用理由の第1位にふつうの寿司屋における板さんへの注文の難しさを挙げている。 もしかすると、日本人の対人恐怖症増加と食品パッケージ裏面の情報増加は比例関係にあるのかもしれない。 消費者は裏面と対話しているのである。
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