95.最上級追い打ち話法(2002.11.25掲載)
味覚人飛行物体、食の冒険家、発酵大王などさまざまな二つ名で世界の珍味を追求する発酵学の大家、小泉武夫氏の講演を拝聴した。豊富な食体験に基づく発酵食品礼賛は実におもしろく熱き90分間だったが、私はこのトークを浴びて、巧みな話術に潜む盛り上げテクニックとしての「最上級追い打ち話法」の存在を発見した。 それは、日本の発酵食品の良さをアピールする時によく使われていた。最初に海外のゲテモノ珍味を「あれはすごかった」と紹介し、聴衆に最上級を印象付ける。その後、「実はこれよりすごいものが日本にはある」と追い打ちをかけながら日本の珍味を紹介するのだ。 例えば、すごい発酵食品としてカナディアン・イヌイットが作る「キビヤック」を紹介する。これは、肉や内臓、皮下脂肪などを抜き取ったアザラシの腹の中に海燕の一種アパリアスをまるごと40〜50羽詰め込み、土の中で2年間発酵させるもの。そして2年後、取り出したアパリアスの肛門に口をつけ、発酵した体液をチュウチュウ吸うのだという。くさやと鮒ずしとゴルゴンゾーラチーズと銀杏を混ぜ合わせたような匂いを持つキビヤック、探検家植村直己氏の好物だったらしい。 ここで氏は追い打ちをかける「これよりすごいものが日本にはあります」。 聴衆は固唾を飲む。 氏は語る「それは石川県に伝わるフグ卵巣の糠漬けです」。 世界的なゲテモノ食で度肝を抜かれた聴衆の心には、「フグ卵巣の糠漬けはすごい」という言葉がしっかりと刻まれるのである。 他にもあった。牛の血を吸わせたヒルの口と肛門を縛って球状にし、ボイルして食べるアフリカのゲテモノ食を紹介した後で、世界一固い食品であるかつお節の不思議を紹介する。カムチャッカに伝わるガンにならないヨーグルトを紹介した後で、その有効成分を含むヨーグルトがもうすぐ日本で発売されると語る。 この話法、新商品のプレゼンで使えるぞ。しかし、当て馬となる最上級を伝えるためのフィールドワークがまだまだ足りない。現時点で語れるものといえば、下町のお好み焼き屋と、デパートの干し柿と、スーパーの花かつおくらいかな。 そして、追い打ちをかける差別化商品の開発に汗を流す日々なのである。
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