100.レトロ正月(2002.12.30掲載)
クリスマスの喧噪をくぐり抜け、年末モードで後半のロスタイムをやり過ごすこの時期、決まって頭を去来する思いがある。それは、「昔の正月を体験したい」ということ。 一切の活動を停止した町の凛と張りつめた空気。親戚一同が集まった部屋に漂う練炭のにおい。すごろくに飽きて飛び出した広場にこだまするベーゴマの音。しびれるほどになつかしい。 そんな昔の正月のかけらでも体験できるかと期待し、先日、お台場の「台場一丁目商店街」を覗いてみた。この商店街、住友商事がデックス東京ビーチに5億円を投じて作ったレトロテーマパークで、昭和30年代の下町を再現している。スバル360が止まってたり、赤い屋根の電話ボックスがあったり、ホーローの看板があったりとディテールに抜かりはないし、ベーゴマ大会やけん玉大会などの演出も完璧。 だけどだけど、期待していたものは何ひとつなかった。空気、におい、音、全てちがう。年間来場者数250万人を目指し、売上20億円を目論むわけだから当然のように人であふれ、当たり前だけど、そこには「今」しかなかった。「愛、友情、空気、大切なものはみんな見えない」という言葉を聞いたことがあるが、まさにそれ。「張りつめた空気、練炭のにおい、ベーゴマの音、昔の正月はみんな見えない」。 ただの骨董市にすぎなかったレトロ商店街に落胆して帰宅。昔の正月をあきらめかけた矢先、意外な場所で似たような雰囲気を体感した。それは地元の工業試験場。さすがは県の公的施設、御用納めに向けた活動停止状態で空気は凛。閑散とした建物の中にはひねもす暖を取るストーブのにおいが漂い、ときおりフラスコの触れあう音が人気のない廊下に響く。あぁ、この空気。私たちの税金で作ったレトロ正月のテーマパーク。 ささやかなセンチメンタルジャーニーで締め括った2002年であった。
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