1004.開港の味（2021.1.25掲載）

　ペリーの黒船が日本にやってきて鎖国が終わったのが１８５４年。 　当初は下田と函館を寄港地として開港したのだが、１８５８年に「日米修好通商条約」が締結されると下田は閉鎖され、函館、長崎、横浜、神戸、新潟の５つを開港して対外貿易の拠点とした。 　この開港都市から西洋のさまざまな食文化が日本に入り、独自の進化で和の食卓に定着した。 　１８５９年、横浜開港。食文化とともに西洋野菜がもたらされ、イチゴ、セロリ、キャベツ、トマト、アスパラガスなどの栽培が始まった。当時の日本の野菜料理は根菜の煮炊きが中心。西洋野菜を生で食べるサラダは新鮮だった。 　特に栽培が盛んだった子安地区では清水與助がトマトケチャップの加工法を学び、１９０３年に「清水屋トマトケチャップ」を創業。ナポリタンスパゲティも広がった。 　１８５９年、函館開港。場所柄ロシアとの交易が盛んで、１８７９年にはハリストス正教会でロシア料理を学んだ五島英吉が、日本人向けロシア料理店「五島軒」を開業。 　筆者おすすめのロシア料理店は、浅草にある「マノス」。巨人軍が打ち上げで使ったこともある正統派ロシア料理。とにかくウォッカがうまい。 　１８５９年、長崎開港。鎖国中も出島で交易していた長崎の開港は１５７０年が最初。日本で最初にハムを作ったのは長崎の片岡伊右衛門といわれている。 　１８６８年、神戸開港。但馬牛を食べた外国人がその味を絶賛して「神戸ビーフ」ブランドが生まれた。 　その後、「神戸にはおいしい牛肉があるのに、おいしいソースがない」というドイツ人技術者ワークネル博士の言葉に奮起した教え子の安井敬七郎が、ウスターソースを開発。１８８５年に「阪神ソース」を創業した。 　１８６９年、新潟開港。１８７４年に国内最古の日本人向け西洋料理店である「イタリア軒」が開業した。定番料理はカレー。 　その結果、新潟県はカレールウの世帯当たり年間消費量が全国２位の１７５８ｇとなった。ちなみに１位は鳥取県の１９４３ｇ。 　日本の良さは異国の文化を柔軟に受け入れ、咀嚼して独自文化に展開すること。食文化もしかり。 　今度、開港の味をめぐる旅に出ようと思うのである。