1005.ハエの足(2021.2.1掲載)
自然界の動植物を模倣して、最新技術で人工的に生活必需品を開発する取り組みは古くから行われてきた。 例えば、クモの糸をヒントにした強靭なたんぱく質繊維、サメ肌を模倣したハイテク水着や蝶の羽をお手本にした扇風機など。 さらに、最近のリサイクル社会に適応すべく、「ハエの足をヒントにした脱着可能な接着素材」が物質・材料研究機構で研究されている。 ハエは垂直の壁や天井に貼り付いても決して落ちないし、その状態から即飛び立つことができる。もちろん何度でも。 この何度でも脱着可能という点が、リサイクル社会に適しているのだ。強力な接着力と同時に、それが簡単にはがせるメカニズムを併せ持っていないとリサイクル時の製品の分解や分別が難しくなってしまう。筆者も、こたつの足を上部の板に強力にくっつけてしまい、廃棄時に苦労した。 ハエの脱着メカニズムはこうだ。 ハエの足裏には「ヘラ状接着性剛毛」と呼ばれる毛が生えている。これは、構造物の表面の凸凹よりはるかに小さく、くぼみに沿うようにして毛をはわせることで接着力が確保できる。一方で、毛に対して力の向きを変えて引くことで、容易に剥がすことができるのだ。 この、先っちょがヘラに似ている剛毛を、研究機構の細田先生がナイロン繊維で作ることに成功した。 直径50ミクロンの繊維2本をアルギン酸カルシウムなどを含む樹脂に浸して引き上げたところ、繊維が一束にまとまり、なおかつヘラ状の先端構造が形成された。 そして、この繊維を756本束にすれば60kgの人間を吊り下げることができる計算となった。しかも接着面9平方センチで。しかも脱着可能で。 小林一茶の作品に「やれ打つなハエが手をすり足をする」という名句があるが、打つどころか手本としてリスペクトせねばならない手や足なのである。 昆虫すごいぜ!
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