1042.子守歌(2021.10.25掲載)
以前、読売新聞で「正しい食の知識は必要だが、食育に偏りすぎると健康上裏目に出てしまう場合もある」という内容の記事を見た。 料理作りを喜んで体験していた幼稚園児が「食べるのが嫌」と突然泣き出したり、クラスの半数が「給食嫌い」の幼稚園があったりするという。 共通しているのは親の多くが食育やしつけに熱心で、栄養面を考えて食事作りをしていた点らしい。食欲より教育を優先した結果か。 過度な食育は大人になっても影響を残す。摂食障害の人は、子どもの時に食事内容を親に厳しく管理されていたケースが目立つのだ。 あふれる情報とマニュアル育児に翻弄された結果、偏った食育になってしまったとしたら、それは育児放棄や幼児虐待と根は同じ。つまり、母親に100点満点の育児を求める社会と、自らを追い詰めてしまう母親自身に起因する暗部なのだ。 NPO日本子守唄協会理事長の西館好子先生は、「いまの母親の残酷さは、育児に100点を求める残酷さです。育児は50点で満点。そう思えば、そんなにつらいはずはないんです」と語る。 たしかに、我が子とはいえ半分は「他人の血」なのだから、半分思うようにならなくて当然。よくわからなくて当然。 そんな子育ての苦悩の受け皿が子守唄だと西館先生は説く。 子守唄には「泣きやまなければつねってやる」とか、「切り刻んで海に捨ててやる」などという残酷な歌詞が多いが、それを静かに口ずさむことで心が鎮まる。残酷な内容の子守唄を歌うことで、残酷なことをせずに済むのだ。 五木の子守唄「おどま盆ぎり盆ぎり 盆からさきゃおらんと 盆が早よ来りゃ早よ戻る」。このおどろおどろしさがいい。 おいしい食事と子守唄で、子も親も癒されなければならないのである。
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