1057.当て馬(2022.2.14掲載)
先日、発酵学の大家である小泉武夫氏の講演を拝聴した。 豊富な食体験に基づく発酵食品ネタを巧みな話芸で展開する90分だったが、ひとつ参考になる話術があった。 それは、日本の発酵食品の良さをアピールする時に使われていたのだが、最初に海外のゲテモノ珍味を「あれはすごかった」と紹介した後、「実はこれよりすごいものが日本にはある」とキメるのだ。 例えば、すごい発酵食品としてカナディアン・イヌイットが作る「キビヤック」を紹介する。 これは、肉や内臓、皮下脂肪などを抜き取ったアザラシの腹の中に海燕の一種「アパリアス」をまるごと40〜50羽詰め込み、土の中で2年間発酵させるもの。 2年後に取り出したアパリアスの肛門に口をつけ、発酵した体液をチュウチュウ吸うのだという。くさやと鮒ずしとゴルゴンゾーラチーズと銀杏を混ぜ合わせたような匂いを持つキビヤック。探検家植村直己氏の好物だったらしい。 ここでキメ台詞「これよりすごいものが日本にはあります」。 聴衆は固唾を飲む。 氏は語る「それは石川県に伝わるフグ卵巣の糠漬けです」。 世界的なゲテモノ食で度肝を抜かれた聴衆の心には、「フグ卵巣の糠漬けはすごい」という言葉がしっかりと刻まれるのだ。 他に、牛の血を吸わせたヒルの口と肛門を縛って球状にし、ボイルして食べるアフリカのゲテモノ食を紹介した後で、世界一固い食品であるかつお節の不思議を紹介したりする。 実際は、当て馬にされる食品の方が凄いと思うのだが、話芸としては見習わねばならない。 「A社の商品はすごい!」と持ち上げといて、「それよりすごいのが我が社の商品です」とキメる。 今度、新商品のプレゼンで使ってみよう。
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