106.酔えないビール(2003.2.17掲載)
先日、宝酒造東京支社の地下1階にある直営レストラン「アンソロジー」で食事をする機会があった。日本橋のオフィス街という立地上、土日は休みにしているが、それでも経営は黒字だと社員が説明してくれた。 そして、乾杯のとりあえずビールが「TaKaRaバービカン」。いま注目のノンアルコールビールである。発売は1986年だが、昨年6月の道路交通法改正で「酒気帯び運転」の基準が厳しくなってから突如ブレイクし、前年対比270%の勢いという。ノンアルコールビールの市場自体は全体で70億円とわずかな数字だが、「ゴルフ場の帰りに検問で引っかかり、同乗者も含めて罰金1台90万円」というよくある噂話も追い風となって、にわかに9社が参入する注目市場となっているのだ。 アルコール濃度0.5%未満のバービカンを飲みながらふと思った。ビールは酔うために飲むのではないのか、と。酔いたくないのならウーロン茶にすればいいし、わざわざアルコール発酵した後にエタノールを除去されたんじゃ、頑張ったビール酵母たちも浮かばれまい。以前、酒に酔わない方法として「飲む前のユンケル皇帝液」をある酒豪に勧め、翌日「全然酔えなかった」と怒られたことがある。やはり酔ってこそのビールではないか。 そんな悩みをおみやげに、小じゃれた日本橋からホームグラウンド御徒町へと場所を移して飲み直し。煮込みを肴にホッピーハイ(焼酎のホッピー割り)をあおった。バービカン発売と同じ年、1986年に初めて上京し、田舎にはないホッピーハイを先輩に教えてもらった。「いいちこ」が下町のナポレオンならホッピーハイは足軽のチューハイ。この街の雰囲気に溶け込んだ、安くて早く酔えるビールカクテルだった。そう、何を隠そうホッピーは昭和23年発売の元祖ノンアルコールビールなのだ。 つまりは、酔いたいから焼酎と混ぜる。疑問の答えは、御徒町のガード下にあった。
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