1064.妄想水(2022.4.4掲載)
仮想水という考え方がある。 これは、穀類や肉類を生産するために、灌漑用水、雨水など、どれだけの水が必要かを試算したもので、例えば「米1kgを作るために必要な水は5.5t」という具合である。 牛肉の場合だと、飼料となる穀物の仮想水まで計算に入れるから、1kgの牛肉に必要な仮想水は20t。すごい量だ。 では、人間の場合はどうか。 洗濯、入浴などの生活水を除き、生物としてのヒトに必要な水は1日2.5リットルといわれている。食糧の仮想水を無視しても、80歳まで生きる人は73tの水を消費することになる。 こんな感じで改めて水の重要性が認識され、食品業界における「水商売」は活況を呈している。 「南アルプスの天然水」「天領水」「100%深層水」「ヴィッテル」「アルカリイオンの水」「ボルヴィック」「エビアン」「六甲のおいしい水」「クリスタルカイザー」…。 無色透明の商品だけに、各社大自然を妄想するブランド構築に必死である。 ミネラルウォーターだけだと1人当たりの年間消費量はわずかだが、清涼飲料水に範囲を広げると、緑茶、紅茶、ウーロン茶、缶コーヒーなども入ってきて、その年間消費量は1人約130リットル。毎日350ml缶1本がヒト仮想水にカウントされているのだ。 ところで、加工食品メーカーが商品を製造する際に使用する水、つまり加工食品仮想水は原価上0円で計算するケースが一般的である。だから、水分の高い商品ほど安く製造できるし、水分の増減がストレートに利益を左右する。 同じ規格なら水分30%のパンより、水分40%のパンを作る方が儲かるということだ。そう考えると、清涼飲料水はその配合のほとんどが水。 メーカーが水の原価をいくらで計算しているかは知らないが、「水商売」はきっと儲かるだろうな。 そんな懐事情まで妄想してしまう水商売なのである。
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