1092.ぶどうの種(2022.10.24掲載)
シャインマスカットを食べるたびに昭和のぶどうと比べてしまう。 種なしどころか皮まで食べられるようになった甘い令和のぶどう、贅沢になったなぁと。 昭和の巨峰は今より少し小粒で酸っぱく、汁の色も毒々しいばかりに濃かったような気がする。 「とびやすき葡萄の汁で汚すなかれ虐げられし少年の詩を」寺山修司 幼時、巨峰を食べた記憶といえば病気の時ばかり。それは、粉薬を飲むため。母が巨峰の種を取り除き、そこに苦くて飲みにくい粉薬を入れて私に飲ませたのだ。 白い粉を巨峰に詰め込む母の後ろ姿と、それをツルンと飲み込む食感は今でも鮮明に思い出すことができる。 「若き日の母が葡萄の種取りて種のくぼみに粉薬置く」Mかつお その巨峰、平成6年以降は小さな赤い粒のデラウェアを抜いて国内栽培面積第1位となったが、今は全て種なしである。 元来、ぶどうに「種なし」という品種はなく、普通に育てると種ができてしまう。種なしづくりは開花の前後に1回ずつ、花房をジベレリンという植物ホルモン液に漬けることで行われている。 稲がバカみたいに伸びて枯れる「馬鹿苗病」の原因物質として1938年に発見された「ジベレリン」に、葡萄の種を消す働きが見つかったのだ。 植物の成長促進ホルモンであるジベレリンで種が消えるという逆転の発想。 そんな日本人の知恵に感謝しつつも、「思い出を詰め込む場所がなくなっちまったぜ」と、ツルリ一粒飲み込んでみました。 昭和の切ない食卓を思い出して、胸がつっかえそうになった。
\\\\
|
column menu
|