111.新幹線上京物語(2003.3.24掲載)
JR東海のCMでこんなのがあった。BGMは尾崎豊の「I Love You」。就職か進学のため新幹線で上京する高校生4人組が、社内で席を向かい合わせにしてはしゃいでいる。ところが、品川か有楽町あたりで高層ビル群に囲まれ始めた新幹線がスピードを落とすと、少年たちは黙りこくってしまう。これから始まる都会暮らしの象徴ともいえるビル群に圧倒されつつ、郷里との惜別、新生活への期待なんかが去来して複雑な表情を残したままCMは終わる。いい映像だった。 私自身、CMより前にこれと同じ経験をしたことがある。23歳で同僚3人と遅咲き新幹線上京(社内規定で若僧は飛行機が使えなかった)。浜松うなぎ弁当を食べ終えた歓談の中、やはり有楽町の高層ビル群で沈黙は訪れた。「こりゃ大変なところに来てしまった」。新幹線を降りても、その切符で山手線に乗れることなんか知らないものだからホームでオロオロ。やっと山手線にたどり着いても人波についていけず、大海でもまれる木っ端船状態となってしまった。「どうなるんだろうこれから」。 生まれた時から東京暮らしの人には想像できない心理だと思うが、不安を抱えて新幹線の車窓から見た初めてのビル群は、たぶん一生忘れないと思う。そんなセンチメンタルジャーニーのお手伝いは、やっぱり新幹線ですよ。地図を這い、距離を感じ、ビル群のお出迎えに少しちびり、駅弁の味がしょっぱくなって、ふるさとのありがたさに感謝する。上京の儀式としては最高ではないか。 しかし、現在はほとんどの新入社員が飛行機で上京し、ドキドキオロオロする間もなくオフィスにたどり着いてしまう。それ以前に、修学旅行だって飛行機なのだ。ディズニーランドの袋を抱えて羽田空港を闊歩することなんて、いつでもできるのに。 ところで、私の名前には「幹」という字が使われていたりするので、少なからず新幹線との縁を感じている。母は昔、「新幹線が開業した年に生まれたから」と言っていたが私の出生は開業より1年早く、これはたぶん後付け。けど、人生の節目を一生の思い出に変えてくれたのだから、新幹線との縁浅からず。 とにかく初上京には新幹線かおすすめなのです。
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