1113.グリーン車の報い(2023.3.27掲載)
大手旅行代理店で新婚旅行を企画している知人が、「壊滅状態の新婚旅行担当から温泉旅行担当に代わった」と喜んでいた。 コロナで激減した結婚式と新婚旅行より、ほっこり女子旅温泉宿なんだ。 日本初の新婚旅行は、2008年放送の大河ドラマ「篤姫」で準主役だった小松帯刀(瑛太)が、妻ちかと義父を伴い霧島を訪れた旅ということになっている(1856年)。 ところで、国内新婚旅行の全盛期は、皇太子殿下と美智子さまご成婚の昭和34年から、ハワイに主役の座を奪われた昭和56年の間ではないかと思う。 具体的にこの期間を挙げたのは、この23年間が、多くの新婚さんが利用した国鉄の伝説きっぷ、「ことぶき周遊券(後のグリーン周遊券)」の販売期間だったから。 鶴などの縁起物があしらわれた重厚な表紙に切符が綴られ、ホームで見送る親族、友人用に「ことぶき入場券」がおまけで付いていた。購入には印鑑が必要という国鉄の「一生に一度」的演出も奏効し、ヒット商品となった。多くの新婚さんが、ことぶき周遊券を手に国鉄に乗って熱海や宮崎を目指した。 昭和49年に結婚した100万組のカップルのうち、37万組が宮崎を訪れたというから、宮崎行きのグリーン車は新婚さんであふれていたに違いない。 一車両全部新婚さんというのもかなり濃いが、以前、それ以上に濃い体験をしたことがあった。 私が乗った新幹線9号車の乗客全員が反社会的裏稼業の人たちだったのだ。 一般人は私だけ。笑顔でグリーン車の座席指定を差配したみどりの窓口嬢が悪魔に思えた。 もちろん、何の危害もなかったのだが、その殺気と緊張感は半端じゃない。つかの間逃避行を気取って駅弁片手にグリーン車に乗ったら、逃げるに逃げられない報いを受けた。 そして、その「神戸牛弁当」は、ついぞ開けることなく終着駅を迎えたという旅の思い出なのである。
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