1137.ブランド好き(2023.9.18掲載)
日本人はブランド好きである。 ルイヴィトンの全売上の4割を日本が占めるし、水戸黄門の印籠に溜飲を下げるのもブランド好きの表れに違いない。 そして、日本人にとって究極のブランドが皇室であることは言うまでもない。 われわれ陛下の赤子は常に天子様の思いを身にまとい、日々の営みを繰り返す。1954年に制度が廃止されたにもかかわらず、「宮内庁御用達」の文字が市場から消えないのも、計り知れないブランド資産の大きさゆえである。 あるかつお節屋の社長さんが、宮内庁に納める本枯節を製造した日のことを語ってくれた。 「作業前に入浴して身を清め、作業着も下着も白。ふだんは選別しない焙乾用の薪も、その日は桜の木だけ。派出所の巡査が生産に立ち会った」 かつお節をいぶす燻材としての薪は、カシ、ナラ、ブナ、クヌギなどの広葉樹であれば何でもいい。桜100%で製造したとしても風味に大差はなく、精神的な問題ともいえる。 このストーリーこそがブランドなのである。 恥ずかしながら、わが職場も宮内庁納品に関わったことがある。 両陛下がお見えになった地方行幸イベントのおみやげ品。県産品を利用した真鯛の粕漬けだった。 「常温で賞味期間1ヶ月」 粕漬けで常温は厳しい。「保存料使ってもいいですか」との問い合わせに宮内庁職員が無言になり、あわてて「無添加でつくります」と訂正した。 プライドとブランドをかけ、無謀な要求をこなした。ご奉仕の悦びと技術的ハードルを越えた達成感が、商品を後押しした。 このストーリーこそがブランドなのだと思った次第である。
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