1148.しわ(2023.12.4掲載)
2024年から五千円札の肖像画が樋口一葉から津田梅子に変更となる。 2004年に樋口一葉が登場した時、原版作りが難航して発行が延期されるという騒動があった。 原版作家を悩ませたのは、樋口一葉のしわの少なさ。24歳で亡くなった樋口一葉の顔はつるつる。しかし、偽造防止のためにはできるだけ多くしわを彫り込みたい。そんな矛盾の解決にかなりの時間を要したわけだ。 実際、1984年に樋口一葉が肖像画候補に挙がった際、顔にしわがないという理由で採用が見送られ、新渡戸稲造になった経緯がある。 20年かけて、彫り込んでもしわが目立たない彫金技術が確立し、一度あきらめた樋口一葉をお札に採用することができたのだ。 津田梅子のしわはどうかな。 同様に20年かけてしわ消し市場を確立した商品がある。ご存知「ボトックス」。 1984年の「熊本からしレンコン事件」で有名になったボツリヌス菌毒素を顔面に注射し、その神経麻痺作用でしわを消してしまう。2004年頃確立したこの応用はすごい。逆転の発想とは、こういうことを言うのである。 フグ毒テトロドトキシンも、細胞内でのナトリウムの受け渡しを阻害するという毒性を応用し、最先端の医療研究の場で試薬として使用されているが、ボツリヌス菌毒素の比ではない。 こちとら駅前プチ整形で一本5万円。青酸カリの1000万倍という史上最強の天然毒を気軽に利用できるのだ。 毒をもってしわを制し、しわをもって偽札を制す。 欲望の輪廻は、なんとも摩訶不思議なのである。
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