116.ノーベルサラリーマン(2003.4.28掲載)
小生、ノーベルサラリーマンの田中耕一氏にちょっとだけ顔が似ているということで、何回かコメントを求められたことがある。 「同じサラリーマン研究者としてどうですか?励みになりますよね」 「なるわけねぇだろ、そんなの。テレビにたくさん出られてうらやましいだけだよ」 などとは決して口にせず、「私も頑張ります」とだけ答えておいた。 社内で全く評価されず、自社商品にさえ採用されなかった技術が世界的な脚光を浴びてノーベル賞。超日本的、プロジェクトX的サクセスストーリーだが、たぶん励みにしている人はいない。 日本の研究者数は72万8000人。9割が自然科学系で、その7割がサラリーマン研究者。その中でも、特に食品系企業の研究者はノーベル賞より新商品。論文の数よりヒットの数。どうなるかわからないマニアック研究より、明日の売上に心血を注ぐのである。だから、励みにも参考にもならないと思う。 食品企業の研究者が参考にするとすれば、ノーベルサラリーマンより料理人。「板さん」の技を数値化し、工場生産レベルにまで普遍化できれば、これはすごいこと。だから、繁盛店の試食調査はぜったいにカウンター。そう簡単に技は盗めないが、通うとたまに情報をくれるし懐に飛び込めばレクチャーしてもらえることだってある。 そんな目論見で、世界一の天ぷらを揚げるといわれる茅場町「みかわ」のカウンターに陣取る研究者も多いという。揚げ時間を頭の中でカウントしているご主人、早乙女哲哉氏との会話はなかなか難しいと思うが、揚げ技を見ているだけでも十分楽しい。「松」コース、7300円。ちょっと高いが十分堪能。 「うまくなるまで揚げて、まずくならないうちに上げること」 早乙女氏が語る天ぷらの極意、下手な論文より奥が深いと思った。
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