1161.丁稚奉公(2024.3.11掲載)
2007年2月25日、先代の三遊亭円楽師匠が現役引退を表明した日のことを覚えている。 進退をかけて臨んだ高座で思うように舌が回らず、「お客さんに申し訳ない」という気持ちで決断したらしい。 円楽師匠といえば、「薮入り」を一度生で聴いたことがある。 丁稚奉公に出した息子が、薮入りで両親の元に帰ってくる日の様子を描いた古典落語の定番。師匠の話芸に感動し、演芸場で涙してしまった。4000円のお代では申し訳ないと思う名人芸だった。 そして今、来月入社してくる新入社員たちに「薮入り」を聴かせてやりたいと思う。 新人諸君よ、丁稚奉公という言葉を知っているか。 丁稚奉公は江戸時代から戦前まで行われてきた商店主育成制度。 10歳前後で親元を離れ、住み込みで雑用をこなしながら礼儀や商売のイロハを叩き込まれる。その後、手代、番頭と昇格し、暖簾分けとなる。 衣食住付きで教育してもらい、独立の手助けまであるのだから丁稚は当然無給。年2回の薮入り時に小遣いをもらう程度。 新人諸君よ、これから給料をもらいながらの研修である。 かつて、新入社員に「丁稚」と書いたトレーナーを着せて叩かれた企業があったが、無給の丁稚に比べれば恵まれた環境ではないか。 新人諸君よ、とにかく研修で礼儀と舌を鍛えてほしい。 礼儀は体で覚えるとして、舌を鍛えるには下記のような識別訓練法がある。 砂糖0.4%、食塩0.13%、酒石酸0.005%、カフェイン0.02%、グルタミン酸ナトリウム0.05%の水溶液で、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味を見分ける。1.00%と1.06%の食塩水を見分ける。5倍希釈と5.25倍希釈のオレンジジュースを見分ける等々。 過去の研修結果を振り返ると、「幼時、質素な食生活を送っていた人ほど舌が鋭い」という傾向があった。 舌にも丁稚奉公が必要なのである。
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