1177.山を捨て町へ出よう(2024.7.1掲載)
ある専門誌で、「山を捨て町へ出よう」なるフレーズで締めくくられたレポートを見た。 ここにも寺山修司ファンがいたか。名著「書を捨てよ、町へ出よう」のオマージュに違いない。 執筆者は鹿児島大学農学部の研究者で、田舎のポプラより都会のポプラの方がよく育つという小じゃれた研究成果の紹介だった。 遺伝的に全く同一のクローンポプラを田舎と都会に植栽し、3年間の成長を調べたところ、大方の予想に反して都会のポプラの方が2倍も成長が早かった。 その要因は、土壌でも気温でも炭酸ガス濃度でもなくオゾン濃度。都会では多量の窒素酸化物(NOX)がオゾンと反応し、田舎よりオゾン濃度が低くなっているらしい。 有害な窒素酸化物のおかげで有害なオゾンが減り、結果、ポプラがよく育ったのだ。毒をもって毒を制す。皇居や御苑の緑が深いはずだ。 そこでふと考えた。田舎のサラリーマンと都会のサラリーマンではどちらがよく育つのか。これも、毒をもって毒を制している都会のサラリーマンに軍配が上がるだろう。 例えば毎日終電を満員にする過剰残業と自虐的痛飲。例えば普通に生活して1万歩は軽く歩かされる健脚通勤生活。例えば抜け道の達人的活用で常に左脳が活性化される慢性渋滞。 こんな適度な毒に比例して、都会のサラリーマンは逞しくなっていくのではないか。田舎→都会→田舎→都会→田舎と勤務地を変えた筆者は、現在、能動的に爆飲し、歩き、抜け道を究め、成長を促している。 寿命の研究者が「快適すぎる気候、快適すぎる環境はかえって体を老化させる」と言っていた。また、顔のしわを取るプチ整形は、最強の食中毒菌であるボツリヌス菌毒素の注射である。そして、組織内に一人悪役が存在することで、その職場が活性化されることは周知の事実。 毒をもって毒を制す都会のポプラとサラリーマン。 彼らは、混迷の世を生き抜くことができる最強種なのかもしれない。
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