122.ホテイチとエキナカ(2003.06.09掲載)
都内のホテイチ(ホテル1階の持ち帰り惣菜コーナー)をまわってみた。ホテルオークラの「シェフズガーデン」、帝国ホテルの「ガルガンチュワ」、赤坂プリンスホテルの「ブーランジュリーアカサカ」。不惑を控え、辻ちゃん加護ちゃんの識別と長いカタカナ語の認識が苦しくなってきた身には、ちょっときびしい店名ばかりである。 店内はもっときびしかった。昼休みのオフィス街から流れてきたOLたちが、ブランド財布を片手にしゃなり。次々と2千円のサンドイッチを注文していた。「このおねえちゃんたちの人生と私の人生は、たぶん一生交わることがない」と哲学的にへこみつつ、月一回上京男は店を後にした。デパチカも落ち着かないが、ホテイチはもっと居づらい。やはり、ローカル男にはロジウラ(路地裏)やガドシタ(ガード下)がちょうどいい。 そんな昨今、エキナカ(駅の改札内グルメ)が脚光を浴びるようになってきた。改札外の激戦区で苦労するより、改札を出る前の客をつかまえてしまおうという戦略である。JR上野駅の居酒屋「いろり庵」、JR東京駅のおにぎり屋「ほんのり屋」、東武北千住駅のお好み焼き「染太郎」などが改札の内側に行列を作っている。 改札を出るまで待てないビールの味とはどんなものなのか。地方にやさしい上野駅で、いろり庵の暖簾をくぐった。囲炉裏や古民具を配した田舎風の内装は独特の雰囲気を醸し、東北の寒村に来たかと見まがうほど。いいぞ、これならくつろげる。と思ったが、ここもローカル男にはきびしかった。まず、ポケットの切符が気になる。酔っ払ってなくしたらどうしよう。時々さわって確認する。そして、切符を持ったままの状態は、後払いでマクドナルドを食べるような落ち着きのなさと、JRに軟禁されているような精神的負担を伴うのだ。 早々に店を出て、改札をくぐった。ほっとして一気に酔いが回った。 エキナカもホテイチ同様落ち着かない場所なのである。
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