123.前情報の味(2003.06.16掲載)
「付け台の中は私達の舞台。売りものは活、粋、意気。新鮮なものを小粋に間合いを図りながらの真剣勝負です。お客様にいっときの至福を味わって頂けるような舞台を務めたいと念じております」銀座久兵衛主人、今田洋輔氏。 「久兵衛以外の寿司は食わぬ」元首相、吉田茂氏。 「昔のはなしである。魯山人が喧嘩を売った。先代が啖呵を切った。本物が解る個と個のぶつかり合いが奇妙な交流を生んだ。久兵衛に残された魯山人の器には二人の血が流れている。昔を語りながら今を食べる。久兵衛の味は変わらない」久兵衛パンフレットより。 「久兵衛なんざぁ座って十万の世界だよ、おまえさん」筆者東京小僧時代恩師、岡田江戸っ子部長。 「カウンターに座ると寿司屋によくあるガラスケースがない。ここでちびるが、シャリ少なめね!と通を気取れ。まぁ、久兵衛で寿司食らうには十年早いよ、あんた」筆者親族東京在住三十年、河野のおじき。 「久兵衛のお寿司をおなかいっぱい食べた〜い」フジテレビ某特番私の夢コーナーで、主婦A子氏。 そんな久兵衛のカウンターに座った。お昼のおまかせコース。中トロ、カレイ、スミイカ、シマアジ、車エビ、大トロ、カツオ、アナゴ、ウニ、カッパ巻、鉄火巻、玉子に茶碗蒸し、ワカメ、味噌汁、フルーツ。 「シャリ少なめね!」 「はいっ、シャリショー」 「何かお嫌いなものありますか?」 「ハマチ」 「シマアジはいけますか?」 「え、あ、うー、どんな味だっけ」 「よろしければいってみますか」 「はい」 こんな感じで始まった真剣勝負。カウンター席左隣は時々テレビで見かける芸能人で、その隣は昼間から同伴している金色ロレックス社長。右隣は板さんから「ぼっちゃま」と呼ばれる常連風のTシャツGパン少年で、その隣は議員バッチ先生たち。 前情報とカウンターワールドがすごすぎて、味わう余裕などなかった。ひたすら食べた30分、税込み8400円なり。 その日の夕食は倹約してヨシギュー。同じように腹一杯、同じように満腹感。 そんな不思議な銀座デビューの一日であった。
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