130.芸妓さんとゆばの味(2003.08.04掲載)
再び豆乳ブームである。20年前の最初のブームでは粗悪品が出回ったせいで人気が急落し、1983年の11万7千tから1992年の2万5千tまで一気に生産量が減少した珍しい業界である。 そして、心機一転。2002年の生産量は、前年比17%増の7万9千t。今回のブームは、骨粗鬆症を予防する大豆イソフラボンの健康情報などが消費者に浸透した結果であり、人気は定着しそう。うわべだけではないようである。 うわべといえば、豆乳のうわべは「ゆば」である。 濃いめの豆乳を加熱し、表面にできる薄い膜を竹串で引き上げると生ゆばができる。タンパク質豊富な健康食品。そんなゆばは中国が発祥ということで、職場の中国人に食卓事情を聞いてみた。 「中国では日常的にゆばを食べるヨ。日本でいうとカマボコみたいな存在ネ」 中華料理にあまり登場しないのは「庶民的すぎるから」だという。なのに日本では京料理の定番。どちらかというと高級路線。そこで、京都の知人に先斗町の納涼床を予約してもらい、これまたブームの「おばんざい」を現場検証しつつ、ゆばを食することにした。 納涼床は、二条から五条の鴨川沿いに並ぶ料亭が、5月から9月の間だけ川に向かって張り出して設ける木組みの席。江戸時代から続く夏の風物詩である。 心地よい川風を浴び、ついでにビールも浴び、いい気分でゆばに箸を伸ばそうとしたその時。 「おこしやす〜」 げげっ、知人が「これも勉強だから」と芸妓さんを呼んでいた。テレビでしか見たことのないホンモノの芸妓さんにお酌をされると飲むしかなく、舞い上がりながらも、つかの間豪遊気分で爆飲した。 「芸妓さんと舞妓さんって違うの?」 「舞妓は15〜20歳くらいまでどす。それから芸妓になります。舞妓はだらり帯で芸妓はお太鼓。帯もちがうんどすえ」 「お座敷料金は時間制なの?」 「そうどす。けど、普通のコンパニオンさんとちごて、お茶屋さんを出てからお茶さんに戻るまでの時間で計算します。昔はお線香が何本燃えたかでお勘定したみたいどすけど」 酩酊しつつも情報収集。しかし、おばんざいもゆばの味も記憶にはない。 「おやすみやす〜」 うわべだけかじった京の夜に、芸妓さんの声がこだました。
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