132.ひと夏の原価計算(2003.08.25掲載)
人里離れた山辺に、ぽつねんとたたずむ民家風の料亭一軒。 「家庭菜園の有機野菜と板長が釣る海の幸でおもてなし」 おぉ、なんとなく期待できそうなコピーじゃないか。 「かまどで炊くご飯がメインです。自信あります」 うん、しろめし大好き。 「素材に限りがあるため、一日一組のみとさせていただきます」 よし、早く行かなきゃ。 こんな期待させる前振りを胸に、明治時代の日本家屋を再現したという山奥の料亭に足を踏み入れた。おぼろ月夜に鈴虫が鳴き、ロケーションは最高。 で、5000円の会席コースは味まずまず。家庭菜園のカボチャ、ナス、シイタケ、ピーマン、板長が釣ったタコ、おいしいかまどしろめし。そしてデザートのスイカも板長作。まあまあかなと箸を置き、ふと考えた。 「これって原価いくらなんだろう」 楽しく作った野菜と楽しく釣った魚と楽しく炊いたしろめしと…。頭がくらくらしてきた。通常、料理屋の原価率は30〜40%であるが、ここは税込み、サービス料込み、場所代込みにお布施込みか。 「この原価計算なら一日一組で十分だぜ」 こんな捨てぜりふを闇に吐いて山を降りた私は、一夏五本の請負仕事、「夏休みの読書感想文」に精を出した。小学生から高校生までジャンルは不問。原稿用紙1枚1000円、成功報酬入賞5000円。 「課題図書をしっかり読み込み、依頼人のレベルに合わせた文章に仕立てます」 「依頼人のエピソードをつかみにし、小説の主人公との重ね合わせがメイン。締め括りの主題総括にも自信あります」 「体力に限りがあるため、一夏五本のみとさせていただきます」 さて、この仕事の原価計算やいかに。 楽しく読んで楽しく書いたのだから、一夏五本で楽しく夏を過ごせれば、それで十分の報酬である。 ぼったくり料亭と同じ原価計算なのである。
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