144.癒し系という言い訳(2003.11.17掲載)
癒し系商品全盛である。昨今の癒しブームは、1994年、大江健三郎氏がノーベル文学賞受賞講演で「人類全体の癒し」について語ったことがきっかけになったとされている。 日経産業消費研究所が10月にビジネスマン1000人を対象に実施した「癒し系商品、サービス」に関するアンケート調査でも、過半数が「癒し系商品」に関心があるという回答であった。 とりあえず「癒し」という冠を付けて売り出せば、そこそこの市場を確保できる時代であるが、よく見ると単なる免罪符として癒しを利用している商品も数多くある。 例えば癒し系アイドル。すっかり軟弱になった日本男児にとって、ビシビシのモデル顔だと気後れしてしまう。バリバリのアイドル顔も荷が重い。どこにでもいそうな普通のほんわか顔ならOKかな。これは癒しているのではなく、単に「優位に立てる」という男性側のプライドを突いているだけ。 例えば温泉旅行。何もない温泉街が「ゆっくりくつろぐいたわりの宿」という癒しコピーでよみがえっているが、金銭消費型旅行が染みついた日本人に、時間消費型旅行がこなせるかな。ぜいたくな時間と時間がぜいたくにあることは意味が違うのである。 そして食品。スローフード運動が盛んになりつつあるが、ここは北イタリアではない。自給自足もいいとは思うが、今の日本では、そこにたどり着くまでのリスクが大きすぎる。 ということで、最高の癒し系食品は3時のお茶だと思う。それも低緯度の太陽を濃密に浴びた鹿児島は知覧の緑茶。カテキン、テアニン、ポリフェノール満タンで濃厚かつマイルド。これはほんとうに癒される。ブランドがないため市場への浸透力は弱いが、飲めば体中に染みわたる感じが実感できる。 癒しはマーケットに押しつけられるものではないのである。
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