149.一事が万事(2003.12.22掲載)
おもしろくない、役者がイマイチ、ストーリーがない…、などと画面にぶつぶつ文句を言いながら、とうとう最後まで見てしまった。大河ドラマ「武蔵」。第1回で黒澤明監督の「七人の侍」をパクったと酷評されていたが、巌流島の決闘シーンでは「マトリクス」のカメラワークをまね、最終回では北野武監督の「座頭市」を意識したシーンもあった。挙げ句の果ての歴代ワースト3視聴率(16.7%)。 なのに見続けてしまったのはなぜか。以前母親が、「NHK朝の連続テレビ小説は、内容はどうあれ毎日見るのが主婦の仕事だ」と言っていた。ならば大河ドラマをやめられないのは、オヤジのさがとでも言うべきか。 つまらない大河ドラマに吸い寄せられるのは、ディテールに抜かりがないからではないか。完璧な時代考証に裏付けされた衣食住と、それを忠実に再現するセットは、月曜日を前にしたブルーなオヤジを時間旅行へといざなってくれる。電柱が映ったり、由美かおるが「ヤッホー」と叫んじゃったりする水戸黄門ではこうはいかないが、受信料の違いだから仕方ない。 NHKの時代考証には頭が下がるが、歴史マニアに言わせると実際はかなり間違っている箇所があるらしい。一事が万事。少しでも変なシーンがあると興ざめしてしまい、全体の価値を下げる。歴史ドラマの怖いところである。 同じようなことを、学生時代にバイト先のレストランで言われたことがある。「お客様に料理を出す時、皿の向きは1センチでもずれちゃいけない。たかが皿の向きだが一事が万事。お客様はそれで全てを判断する」 ちょっとでもお皿が斜めになっていたり、主菜が正面を向いてなかったりしただけで、店の格は地に落ちる。バイト学生にはピンと来ないお説教だが、就職活動ではピンと来てもらわなければ困る。入社面接試験は一事が万事の一典型。たかだか30分の所作で全人格を判断されてしまうのだ。 大河ドラマと面接試験。一事が万事で要注意。
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