151.皮をむいて食べてください(2004.1.13掲載)
2004年の食品業界。そのキーワードの1つは昨年に引き続き「二極化」だと思うが、「高級品と低価格品」という従来の二極化に加え、今年は「軟らかいものとちょっと固いもの」という二極化にも注目してみたい。 軟らかさの追求は舌触りの追求であり、ナノテクノロジーとまではいかないまでも、ミクロン単位の加工技術が要求される(1ミリ=1000ミクロン)。 例えば味の素の「クノールカップスープ」。なめらかな舌触りの決め手はコーンパウダーの製粉技術。発芽後100日目から107日目の北海道産スイートコーンを収穫したその日に製粉するのだが、コーンパウダー一粒の直径が100ミクロンになるよう調整している。このこだわりで発売30年目にして年商300億円の主力商品に育った。 例えば世界一薄い食品、花かつお。その厚さ20ミクロン。かつお節をコーンスープの粒より薄く削ることで、お好み焼きの上で踊り、口の中でとろける軟らかさを実現している。 食品以外で軟らかさの追求が奏功した商品に、ビーズクッションがある。直径500ミクロンのパウダービーズを水着素材の中に詰め込んだ商品「モグ」をヒットさせたエビス化成は、発泡スチロール業時代の年商2億円を、5年で45億円に発展させた。 これらの軟らかい商品は癒し世代の支持を受け業績を伸ばしているが、「隅に置けないちょっと固いもの」も注目の食材である。ご飯のおこげ、干し柿、パンの皮…。癒し食品のぬるま湯加減に辟易した時、ちょっと固い食品が食欲をそそるスパイスとなるはず。 昭和50年春。小学6年生になった私は新1年生の給食当番に任命され、給食室からパン箱を担いで昼休みの渡り廊下を急いだ。早く1年生にパンを届けたいと思ったわけでもないのだが、なぜかセメントのかどに足を引っかけてしまい転倒。見事パンは散乱した。まだ給食のパンが個包装されてなかった時代、表面は土まみれになったが、黒板の前に立った私が「皮をむいて食べてください」と頭を下げただけで一件落着。のどかな時代だった。 その教室に、5歳年下の私の愚弟がいた。以来、パンの皮マニアとなった彼は、今でも皮に執着する。「こげすぎたくらいのブリオッシュの皮が最高」。 30年前を反省しつつ、それもありかなと思う新春なのであった。
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