154.マッハばあさん(2004.2.2掲載)
デパートの7階あたりでよく開催される物産展。「50食限定」とか「空輸しました」なんてコピーにつられ、ついつい大枚をはたいてしまう。一般的に、デパートの催事は集客の一手法であり、ついで購買を見込んでの企画であるが、昨今のグルメブームで催事のみをピンポイントで狙うマニアも多い。 日曜日午前9時45分。某デパート3階の駐車場連絡口で開店を待つ。1階の正面玄関からエレベーターを目指すより、3階からエスカレーターを駆け上がった方が早いのだ。 10時開店。ロケットスタート。「いらっしゃいませ」のシュプレヒコール咲き乱れるフロアーを駆けるのはかなり恥ずかしいが、イメージトレーニングの成果で「短距離選手を応援する黄色い声」という設定が固まっているから問題ない。エスカレーターを折り返すこと4度。7階催事場で最も長い行列を作る繁盛店に直行。ポールポジション確実…。 息が切れ、肩が上下する私の前に、そのおばあさんは、いた。 呼吸を乱さず、「ひとつちょうだい」と言って1万円札を出していた。 全く考えられない。デパートに泊まっていたとしか思えない。1階からのエレベーターはまだ着いていないし、エスカレーターを駆け上がれる年齢ではない。謎のマッハばあさん。恐るべし催事オタク。 こんな熱いバトルの一方で、催事の裏側ではシビアな損益計算が展開される。例えば、1個1000円の商品を1日100個売ったとして売上10万円。原価5万円とすると、粗利益は5万円。ここからデパートにテラ銭3万円、仲介役の物産協会に5000円、マネキン販売員に1万円払うと、手元に残るのは5000円だけ。これは厳しい。 プロの催事屋になると1日100万円売り上げることもあるらしいが、メーカーの社員が声を張り上げたくらいではどうにもならない。筆者も20年前に声を枯らしたことがあったが、結局は薄暗い納品口で、返品の山を台車に積み替えるという悲しい結末だった。 マッハばあさんに勝たんとエスカレーターを駆ける時、そんな小僧時代のことを思い出すのである。
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