159.国際人(2004.3.8掲載)
本稿157号「野菜の戦士」の項で韓国食文化探訪記を紹介したが、その時お世話になった韓国人の金氏を日本に招待し、日本食文化探訪を実践してもらうことにした。 5日間の日本滞在で、寿司、天ぷら、うどん、そば、とんかつ、焼き肉、焼き鳥、ラーメン。とりあえず、私がおいしいと思う店をハシゴしてもらった。韓国でも日本食レストランは増殖を続けており、ヘルシー志向で懐に余裕のある韓国人の支持を得ているらしいが、それらの味とどこがどう違うのか。 「全部オイシイヨ」 「韓国の日本食レストランとの違いは?」 「ウーン、スコシMSGノ味ガ強イネ」 MSGはグルタミン酸ナトリウム。昆布に多く含まれる旨味成分で、「味の素」とほぼ同じと考えてもらっていい。とにかく日本人はこの旨味に弱いのだ。たしかに韓国食は全体的に旨味に欠けていて、「味の素」をふりかけたくなる物足りなさがある。日本人のMSG好きを再認識させられた評価だった。 滞在最終日、日本語を学んで2年目という金氏に「日本語のことなら何でも聞いてくれ」と豪語し、にわか日本語教室を開講した。 「東京ノ発音ハ、トウキョウ?トーキョー?ドチラデスカ」 「うっ、…どっちだっけ」 最初の質問で、日本語教室は閉講となってしまった。 そして、すぐに日本語歴15年の中国人にヘルプ。答えは明快だった。 「東京はトーキョー。トー、のように伸ばす発音は次の4つの場合です。母音がエ+イ、母音がオ+ウ、ユ+ウ、ヨ+ウ。だから、学生は、ガクセー。流行は、リューコー。慣れるまでは、常にこのパターンに当てはまるかどうかを考えながら話すのです」 なるほど、そんなルールで話していたのか。 日本食のしかけも日本語のしくみも、それらを客観的かつ体系的に評価できる第三者に指摘されて初めてわかるもの。本当に勉強になる。 気を取り直し、再び日本語教室を開講するために件の中国人に教科書を借りることにした。 「使わなくなった日本語のテキスト、貸してくれませんか」 「いいですけど、中国語で書いていますよ」 「うっ、…そりゃそうだ」 また恥をかいてしまった。 当たり前のことを再認識することが、国際人への第一歩だと思った。
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