173.モナカシフト(2004.6.14掲載)
この時期、食品業界の話題は「今年は冷夏か猛暑か」という点に集中する。当然であるが、冷夏だと夏商材は大打撃。特に、史上最悪の冷夏といわれた1993年の食品業界は悲惨だった。ビアガーデンは開店休業、めんつゆは売れず、アイスは溶けず、景気の足を引っ張るばかりであった。 冷夏に限らず、天候の影響を受ける企業は全体の70%にまで上るといわれている。そこで、この天候リスクに目を付けた保険、「天候デリバティブ」が昨今幅をきかせている。「約定の気温を0.01℃下回る毎に4000円支払う」という冷夏デリバティブや、「降水量が10ミリを越える日が所定日数を上回った場合、1日につき12万円支払う」という紅葉時期限定デリバティブが人気で、昨年、これらの保険に助けられた海の家や峠の茶屋がけっこうあったと聞く。 しかし、我々がなすべきは、保険加入より気候に合わせた商品戦略づくりではないか。30℃を超えるとミネラルウォーターが売れるが、28℃までなら炭酸飲料が売れる。冷夏が長引けばおでんの展開時期を早めればいいし、ざるそばをかけそばに入れ替えてもいい。金を出すより知恵を出せ。 例えば、サッポロビールは、冷夏になったら気温によって売り上げが大きく変動しないエビスビールに注力する「エビスシフト」を敷く。江崎グリコの場合だと、シャーベットアイスをやめ、モナカアイスに注力する「モナカシフト」を敢行。 1964年5月5日後楽園球場。広島カープは王貞治選手に対し、守備位置を極端に変更する「王シフト」を敷いて、球場を沸かせた。 デリバティブよりモナカシフト。 食品業界を沸かせる冷夏戦略なのである。
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