180.セカチュウとイモジョウチュウ(2004.8.2掲載)
日経新聞が発表した2004年上期のヒット商品番付を見ると、西の横綱に「世界の中心で、愛をさけぶ」が鎮座していた(東の横綱はDVDレコーダー)。片山恭一著の原作は300万部を突破し、「ノルウェイの森」を上回る史上最大のヒット。映画も観客動員数324万人と大成功。 しかし、「セカチュウ」のヒットは、出版業界では理解不能な現象らしい。「今どき恋人が病に倒れる話なんて」「タイトルが恥ずかしい」「私が原稿を受け取っていたらボツにしていた」「小学館だからできた企画(小学館は他出版社に比べて文芸色が薄い)」など、編集者筋の評価は厳しい。 ではなぜ売れたのか。どうやら、「普段小説を読まない人がかなりの数読んだから」というのが業界の定説らしい。つまり、本好きじゃない人にとって、恋人が病に倒れるベタな話と押しつけがましいタイトルがかえって新鮮。読書家が恥ずかしがるような内容が、非読書家の心を捉えたということだ。 ところで、通常の購買層以外の支持を得てヒットした商品が、もう一つ番付にあった。東の関脇「芋焼酎」。芋臭いと敬遠されていた一昔前が嘘のように、多くの女優が「マイブームは芋焼酎」とインタビューに答え、オークションで稼ぐ不届き者が「森伊蔵」の抽選に精を出す。真の酒好きはコストパフォーマンスに優れた甲類焼酎を愛飲するが、普段酒を飲まない人が芋焼酎を中心とする乙類を支え、焼酎の出荷量が半世紀ぶりに日本酒を抜いたのである。 おかげで芋焼酎の原料であるサツマイモ「黄金千貫」を作る農家はホクホク。茶畑にシラス台地の主役を譲ったかつての雄は、ここにきて完全に復活したのだ。 あぁ、セカチュウとイモジョウチュウ。 「新しい顧客層を開拓して売り上げ増」。こんなマーケティングの常道で結果を出した二つの商品に、ちょっとだけ嫉妬してしまうのである。
|
column menu
|