181.おいしいストレス(2004.8.9掲載)
今年の猛暑で売り上げを伸ばしている食品は何と言ってもビールであるが、意外なところで「ゴーヤ」の出荷も好調らしい。かつては沖縄限定の郷土野菜だったゴーヤであるが、今や全消費量8,500トンのうち40%が沖縄県以外。近所のスーパーや、ふつうの居酒屋でもよく見かけるようになった。 ゴーヤの特徴は、高いビタミンC含量とあの独特の苦味。「モモルデシン」という怪しい名前の苦味物質に由来するゴーヤの味は、不思議と大人たちを引きつける。卵とじにしてかつお節をふりかけると、うま苦い感じのいいバランスになるのだ。 ところで、大人になるとなぜ苦いものが好きになるのか。子供は、本来毒のマーカーである苦味のあるものを絶対口にしない。私自身、ビールもゴーヤも苦いコーヒーも、心底好きになったのは30代になってからである。 この疑問を明らかにする研究成果が最近発表された。結論は、「ストレスがたまると苦味が好きになる」ということだった。 被験者に、画面上の52字×10行の紛らわしい文字列から指示された文字をカウントするという過酷な仕事をやらせると、その後、特別に苦くしたチョコレートをおいしいと言ったらしい。ストレスを感じると唾液に脂が分泌され、その脂の影響で苦味の感覚が鈍くなり嗜好が高まるのだという。どうりで仕事の後のビールがうまいはずだ。 しかし、苦いものがおいしくなるのがストレスのおかげってのもなんだか情けない。そして、ビールとゴーヤに吸い寄せられる週末は、もっと哀しい。ビールとゴーヤと苦いコーヒーが好きになった30代は、ストレスから逃れられなくなった30代だったのか。 ちなみに、職場にある味覚センサーで全ての缶ビールの苦味を測定したところ、アサヒビールの「富士山」が最も苦いビールとして検出された。ストレスチェッカーとして冷蔵庫に常備してもいいかなと思った。
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